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勾玉キッス☆
官能リレー小説 - 性転換/フタナリ

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勾玉キッス☆ 88

 私も幻姫も、その姿を呆然と見ていた。裕美さんは蹲ったままだし、雅章君はもとから目の焦点が定まっていない。
 森崎君は、空になった缶をくるりと逆さまにしてから、缶を何回か振ると、くるりと缶の向きを変えた。

「桐生 雅の淫蕩なる人格に、今しばらくの深き眠りを与えよ。急急如律令破邪封魔。」

 森崎君はぶつぶつと何かを唱えていたようだけれど、何を言っているのか、私にはよく聞こえなかった。
 森崎君は、ふぅっと大きく息を吐いて、至って冷静な口調で話し始めた。

「確かに、幻姫やミヤビさんの言う通りだ。
 文書の記録通りならば、俺たちの目の前にいる幻姫は一体何者なんだということになる。
 信じてもらえないのも無理はない。何しろその部分の記録だけ、内容があまりにも荒唐無稽すぎるから、信憑性が極端に低いんだ。そんな記録を、誰が信用するっていうのさ?」

 すると森崎君はいきなり、持っている缶を短刀を投げる要領で、雅章君目掛けて投げつけた。

 カコンッ!

 森崎君が投げつけた缶は、雅章君のおでこに命中し、缶は雅章君の足下に転がった。

「森崎君! あなた本当になに考えているのよ!
 いきなり雅ちゃんに缶を投げるなんて!
 バカじゃないの?!」

 森崎君のあまりの奇行ぶりに、私は体の疼きを忘れ、思わず叫んでいた。

「少しは出来るかと思っていたけど、どうやら私の思い違いだったみたい。あなたって……クスッ、案外バカなのね」

 幻姫も呆れたような物言いをする。ご丁寧に『バカ』を強調して言っている。
 森崎君は、何も答えなかった。私は森崎君の視線が、雅章君に向いているように思えた。

「……………」

 雅章君は足下に転がっていた缶を手に取って、じっと見ていた。

「…この缶………どこかで見たような……………あぐっ! ぐあっ! ああああああああ………」
「えっ、ちょっと? 何?」

 それまでの雅章君の淫らな表情が突然、苦悶の表情に変わっていた。苦悶の表情を浮かべたまま、雅章君はその場に蹲り、苦悶の声をあげていた。
 いきなりのことに、幻姫は戸惑いを隠せなかった。

「…いやよ……あなたなんかに……渡さないわ……この体は………あたしのものなのよ……あなたなんか……とっとと消えればいいのよ……」
「………ざけるな……ぐぅっ……この体は……てめぇの……ものじゃない………この体は………俺のものだ……ぐあぁっ……」

 完全に女性口調だった雅章君が、私が知っている雅章君の口調に変わっている。

「その言葉遣い……雅章? 雅章なの!?」

 床に蹲っていた裕美さんが、いつもの雅章君の口調を聞いた途端、バッと顔を上げた。

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