勾玉キッス☆ 84
「ちょっと、森崎くん。まさか、その仕込み杖の刀でこの闇を破るつもりなの? 森崎くん、正気なの?」
裕美さんが森崎君に問い掛ける。でも、「正気なの?」は、ちょっと言い過ぎじゃないかしら?
「……天野さん。本当に仕込みの刀だけでこの闇が破れると…闇を払えると思うかい?」
「破れるから、構えているんでしょ?」
裕美さんがそう言うと、森崎君は刀を持った左手をだらりと下げた。瞬間、刀は杖の役割を果たし始める。
「…えっ? 刀、使わないの?」
驚いたように裕美さんが言う。正直言って、私も驚いていた。
確か、森崎君が持っているのは、刀を仕込んだ杖と、階段で私に向けた黒い道具だけだったはず。
森崎君は他にも何か持っているってことなのかしら?
「刀でこの闇を破るのなら方法はある。
一つは、刀でこの闇を切り裂くこと。そしてもう一つは、この闇を作り出している元を断つことだ」
「それならそうすれば…」
「だが、相手は強力な結界を作った上に、結界の中に闇も作った。並の奴はここまで手の込んだことはしない。
とすれば、相手は相当な奴だと考えるのが普通だろう。
確かに刀で破れないことはない。だが、それをするくらいなら、もっと手っ取り早い手がある」
「それを使えば、手っ取り早くいけるの?」
「ああ。ちょっともったいないけどな」
森崎君はそう言うと、制服の中から何かを取り出した。
「森崎くん、何それ? お札なの?」
森崎君は、制服の中から木製の札を取り出していた。
木製の札を見て、裕美さんは少し驚いていた。森崎君が取り出したお札に、私は見覚えがあった。
「森崎君、それ……[破魔の札]でしょ? 木の色具合から見て、相当な年代物のはずよ」
「その通りだ。こいつは[破魔の札]だ。
こいつで闇を払う。後で俺は始末書を書くことになるが、桐生さんを助けるためだ。背に腹はかえられない」
妙なことを森崎君は言う。
始末書を書くなんて、どういうことなのかしら?
「始末書を書くって、一体何を言ってるの、森崎くん?」
「裕美さんの言う通りだわ。“三池典太”の刀に黒い道具。相当な刀の腕前に[破魔の札]。それに、女の子なのに男の子を演じている。
森崎君。私はあなたが、ただの人間だとはどうしても思えないの。
教えて。あなたは一体何者なの?」
初めて会った時から感じていた疑問を、私は森崎君にぶつけてみた。
森崎君は少し黙って、口を開いた。
「巫女さん。俺は普通の人間だよ。ただ、人より3年長く高校生をやっているだけなんだ。
それに。俺の素性は今は言えない。時が来たら、必ず話す。
だから今は……俺を信じてくれ」
「……わかったわ。あなたを詮索するのは、今はやめておくわ。今は一刻も早く、雅あ…ううん、雅ちゃんを助けないと。