勾玉キッス☆ 9
あれ?なんだろ…眼柱が熱い。だめだ、止まらない…
「ぐぇ…ひぐっ…俺、裕美が居ない間に…」
肩を震わせながら目からの涙が止まらない…
こんな事って久しぶりだ。俺が裕美の前で涙を流すなんて。眉間にしわを寄せ、情けない顔でぽろぽろと涙を流している俺を見て、裕美ははっとしたような表情を見せた。
「その…キズ跡」
裕美が俺の右手を取る。ふと見れば、明らかな少女の手。
白く細い指を持つ綺麗な手の甲には、1本の細いキズ跡があった。
「本当に…雅章なの?」
俺は片方の手で涙を拭いながら、こくりと頷いた。
「雅章…やっぱりそうなんだ。そのキズ…」
裕美の言葉に、俺はキズのある右手を見た。
そうか、裕美はこれを見て…
ガキの頃の俺は、泣き虫でいつも虐められていた。そんな時、いつも裕美の口癖は、
「なにイジイジして…それでも男なの?女の子を守れなくてどうするの?」
その言葉に触発されて、俺は合気道を始めたんだっけ。
そんな気の強い裕美が、ある日野犬に襲われた。一緒にいた俺は体を張って彼女を護った。
怖かった…だけど彼女を守るのに必死だった俺は自分がひどい怪我をしている事すら気が付かないくらい、強く彼女を抱きしめていた。
結局、野犬は近くにいた人が追っ払ってくれたけど…
その時出来た思い出の傷。
あれから裕美は俺の話を素直に聞いてくれた。
俺が甘ったるいソプラノ声に戸惑いながらの説明でも、うんうんと頷いてくれる。
「そっか。雅章、さっきの事はごめんなさい。」
「いや、いいんだ。裕美がわかってくれれば」
「…でも不思議。雅章って女の子になっても、ちゃんと面影が残っているんだね。」
「……裕美」
思わずまた涙腺が緩む。その時、裕美は両手で俺の頬を触り始めた。
ぺたぺたと触ったり、ほっぺを抓って…っ、…オイ!
「ひゃうっ!」
シャツの上から胸も掴まれ、一瞬、体が浮く。
俺は咄嗟に両手で胸を隠し、背中を猫のように丸めた。
「…やっぱホンモノだ。」
「ううっ…ば、ばかぁ。そこまで触らなくていいじゃないか。」
せっかくいい雰囲気だったのに…
そんな事をしなくていいだろうが!!
「はは、ごめん。で、これからどうするの?」
「うっ…それは…」
そうなのだ、このままじゃ駄目だ。でもどうしよう…
「やっぱ先に家に連絡しよ。麗華さんを心配させちゃ悪いし、迎えに来てもらうのよ」
「れ、麗華姉ぇに?」
何やら嫌な予感がする。俺の気のせいか?
麗華姉ぇ事、如月 麗華(きさらぎ れいか)は、俺の従姉だ。1年前、父が海外に転勤が決まった時、お袋と妹は親父の所に行き、俺だけ日本に残った。