勾玉キッス☆ 78
ミヤビの言う通り、私は結界の左側に立ち、ミヤビは右側に立った。
「それでどうするの?」
「結界に向かって左手をかざして。私は右手をかざすから」
言う通りに、私は左手をかざし、ミヤビは右手をかざした。
「森崎君……いいえ、森崎さん、と呼ぶべきかしら?」
「今は、“君”でいいよ。その方が楽だ」
「じゃあ、森崎君……今から見ることは、あまり詮索しないでね」
「ああ。分かった」
ミヤビの言葉に、森崎くんは納得していた。
「裕美さん、準備はいいかしら?」
「…ええ。いつでもいいわよ」
「それじゃあ、始めるわ………封印の巫女、ミヤビの名において」
「……巫女の護人、天野 裕美の名において」
「「立ちはだかる結界を打ち破らん!!」」
結界に向かって、私とミヤビから何かが放たれるように見えた。波動、というものなのかもしれない。
私とミヤビの波動が一つになり、大きな波動となって、結界を破ろうとする。
意識が遠くなりそうな気がしてきた。私はそれを耐えようとする。
「裕美さん……もう少しだけ…頑張って!」
「…ミヤビ……私、気が遠く…なり…そう…」
「…天野さん、巫女さん。俺も加勢する。真ん中を空けてくれ」
私とミヤビの後ろで、カランッ、と音が聞こえた。森崎くんが再び刀を抜き、鞘の部分を床に放り投げた音だったのだ。
森崎くんは左足で踏み込むと同時に、刀で下から上へ切り上げた。
ガリガリガリッ、と、ものすごくイヤな音が聞こえる。
「森崎くん!」
「たとえ1人の力で破れなくても、力を合わせれば破れるはずだ!
俺も力を貸す!
だから天野さんも諦めるな! ここで諦める訳にはいかないはずだろ?!」
森崎くんの言う通り、私たちはここで諦めるわけにはいかなかった。
諦めたくない。その想いで、私は力を集中させる。
「うおおおぉぉっ!」
森崎くんが刀に力を込め、刀は少しずつ上へ動いていく。
「結界にヒビが入っているわ! もう少しで破れそうよ!」
ミヤビが叫んだ。私は力を集中し続けた。
森崎くんの刀も、さらに上へ動いている。
「でぇぇぇりゃあああぁぁぁっ!!」
森崎くんの刀が結界から離れ、刀の軌道は半円を描いていた。
森崎くんは結界に背を向けるように立っていて、放り投げた鞘を拾い、刀を収めた。
チャキンッ、と澄んだ音がする。
ミヤビが、結界に向かってかざしていた右手を下ろした。私も、かざしていた左手を下ろす。