勾玉キッス☆ 77
「天野さん、巫女さん。ちょっとどいてくれ」
森崎くんはそう言って、左足のかかとをカンッとならすと、制服からストンッと白い棒が出てきた。森崎くんはそれを逆手で取ると、結界の正面に立って、何かの映画で見たことがあるような、盲目の居合いの達人がするような構え方をした。
その白い棒って……仕込み杖なの!?
その瞬間、森崎くんは杖から刀を抜き、左から右へ、上から下へと刀を振るい、刀を鞘に入れた。チャキンッ、と澄んだ音がした。
「森崎くん、そんな物まで持っているの?」
「ああ。何かと便利だからな」
「便利って……一体何に使うのよ………」
「何にって…そりゃあ、杖にしたり、モップの柄にしたり……」
「モップの柄になる訳ないじゃない!」
のらりくらりと言い訳をする森崎くんに、私は思わずツッコミを入れてしまう。その一方で、ミヤビは結界を見ていた。
「…すごいわね。一撃で結界に傷を入れるなんて…刀の切れ味だけじゃない。森崎君の腕も相当なものよ。女の子なのに、すごいわ」
ミヤビは驚いていた。
「森崎君。その刀……妖刀じゃないわね。“三池典太光世”でしょ? 力を宿した刀じゃなかったら……並の刀なら、一発で折れているはずよ」
ミヤビの言葉に、森崎くんは少し黙ってから言った。
「………ご名答。巫女さん、よく知ってるじゃないか。それに、俺の性別が一発でバレたのも巫女さんが初めてだ。なんで分かった?」
「……匂い、かしら。どんなに男の子を演じても、匂いだけは誤魔化せないから」
「巫女さんには全てお見通し、か」
「ふふっ、そんなところかしら。
…けど、力を宿した刀をもってしても破れなければ、正直言ってお手上げね」
「…ああ。破る前に折れたら元も子もない」
「じゃあ、他に手はないの?」
私は焦っていた。ドアの向こうに、雅章がいる。なのに助けに行けない。私はそれがたまらなく悔しかった。
「大丈夫よ、裕美さん。この結界は破れるわ」
「破れる? さっきは『残念だけど…』って言ったじゃない!? 森崎くんの刀でもダメだったのに、どうやって破るって言うの? ねぇ、ミヤビ。教えてよ!」
私はミヤビに食ってかかっていた。焦りのせいか、感情が抑えられなかった。
「……そのために、あなたの力が必要なの」
「私の?」
「そう。[巫女の護人]でしょ、あなたは」
ミヤビの言葉に、私はハッとした。
…そうだった。私は雅章の力になりたくて、巫女の護人になったんだ。
「裕美さん。あなたは左側に立って。私は右側に立つから」
「それでどうするの?」
「私と裕美さんの力で結界を破るわ」