勾玉キッス☆ 76
まさに、一触即発の危機だった。ミヤビが術式を使えば、森崎くんは迷うことなく銃を撃つかもしれなかった。
「やめて、ミヤビ! 森崎くんも撃たないで!」
私は思わず叫んだ。こんな所でミヤビと森崎くんが戦うなんて、私は見たくなかった。しかし、それは私の取り越し苦労みたいだった。
森崎くんは銃を下ろし、制服の後ろに仕舞い込んだのだ。ミヤビはかざしていた右手を下ろしていた。
「撃ちはしねぇよ。あんな構えで引き金を引いたら、当たらないどころか、身体が痛くなる。威嚇だよ、威嚇」
「ごめんなさい、私もそうだったの。気配は強かったけど、決して悪いものじゃないって分かったから」
森崎くんが階段を上がって来る。森崎くんはミヤビの前に立ち、スッと右手を差し出してきた。
「あんたとは、気が合いそうだ」
「そうかもしれないわね」
「森崎 晶だ。よろしくな」
「私はミヤビよ。よろしくね、森崎君」
ミヤビも右手を出し、森崎くんと握手をした。その光景に、私は胸をなで下ろした。
「ねぇ、森崎くん。ここへ何しに来たの?」
私は森崎くんに聞いてみた。理由もなく、森崎くんがここに来るはずがない。
「ああ、それか。屋上のフェンスが見えなかったから、まさかと思って屋上に向かっている時に、天野さんと巫女さんに遭遇した、てところさ」
「霧が出ているんじゃないの?」
「天気予報は晴れだと言っていた。どこをどうしたら、霧が出るんだ?」
私と森崎くんの会話を聞いていたミヤビの顔が青くなっていくのを、私と森崎くんは気がついた。
「どうしたの、ミヤビ? 顔が青いけど」
「…裕美さん。この上に誰かいる?」
「ええ。雅あ……じゃなくて、雅ちゃんがいるけど」
「天野さん。雅って、今日転校してきた、桐生 雅のことだろ?」
「うん。そうだけど」
突然、ミヤビと森崎くんが階段をかけ上がり始めた。一体どうしたのか、私には分からなかった。
「ミヤビ! ねぇ、どうしたの?」
「雅あ……ううん、雅ちゃんが危ないの!」
「嘘でしょ!?」
私はミヤビと森崎くんの後を追って、階段をかけ上がった………
屋上のドアの手前で、ミヤビと森崎くんは立ち止まっていた。2人の先に、透明な壁のような物が見える。
「思った通りだったか……」
「この透明な壁みたいなのって、もしかして……」
「そう。これが結界よ。しかも強力な……」
「ミヤビの力じゃ破れないの?」
「残念だけど……」
ミヤビは首を横に振った。絶望的、とも言える状況だった。