勾玉キッス☆ 74
俺は、制服のズボンにベルトを通すだけで着けられるヒップホルスターから、隠し持っていた拳銃を抜いた。
SIG P229。
40口径の弾丸を発射する、ドイツ製の拳銃だ。
俺は初弾を装填すると、トリガー(引き金)の後ろにあるレバーを押し下げた。
これで、セーフティをかけたことになる。
俺は引き金に指をかけない様に銃を両手で握り、銃口を左斜め下に向け、出来るだけ音を立てない様に階段を一段ずつ上がっていった。
上がっていった階段の先には、見慣れたクラスメイトと、巫女の服を着た人の後ろ姿が見えた。
あれは………天野 裕美じゃないか。じゃあ、巫女の服を着ているのは誰なんだ?
2人は何かを話しているようだが、何を話しているのか、俺には分からない。見ていたことを悟られないように、俺は2人にさりげなく声をかけた。
「お〜い、天野さん。巫女服の人とそこで何をしているんだい?」
* * *
「……どう、裕美さん。目、開けられる?」
ミヤビに声をかけられ、私――天野 裕美――はゆっくりと目を開けた。まぶしい光に目は徐々に慣れ、いつもの風景が私の目の前に広がる。
「裕美さん、大丈夫?」
心配そうな顔をして、ミヤビが私の顔をじっと見ている。
「……何とか大丈夫。ふらつく感じはするけれど…あんまり気にするほどじゃないから」
私はミヤビを安心させようと、少しだけ強がってみた。胸の痛みもふらつきも、時間が経てば元に戻るだろうと私は思っていたのだ。
「護人(まもりびと)の儀式はこれで終了よ。お疲れ様。護人として、雅章君をお願いね」
「それは違うわ、ミヤビ」
ミヤビの言葉に、私は言葉を返した。
「違う?」
「護人としてなんかじゃない。確かにそれもあるかもしれないけど……でも私は、雅章の幼馴染みとして、雅章の力になりたいの。それだけじゃない。雅章は私にとって大切な……大切な………」
「想い人、なんでしょ? 裕美さんにとっての雅章君が」
欠けた言葉を補うかのように、ミヤビが言った。
「だから、護人になることを受け入れたんでしょ? そうじゃなかったら、あんなに固い決意なんかしないもの」
「お見通しなのね、ミヤビには」
「顔に書いてあったもの、裕美さんの顔に。私はそれを読んだだけよ」