勾玉キッス☆ 63
結局、裕美に押し切られる形でしぶしぶ承諾する。
女になって以来、ますます裕美に頭が上がらないようだ。
俺……弱くなったのかな。
「う〜ん。いい天気〜」
弁当を食べ終わった後、腹もいっぱいになった事だし俺は、思いっきり背筋を伸ばす。
風が心地よく頬をくすぐる。
「……雅…」
「……何?」
「ううん、何でもないの……はぁ…」
私は思わず溜息が出た。会うたびに女の子らしくなってくる雅。
男の雅章の面影はなく、今は同性の私が見てもドキっとする程綺麗だ。
こわい。このまま雅章が女らしくなっていくのは。
私の知っている雅章は……
ううん、まだ彼には、私の思いを言っていないのに…
「ね、ねぇ。み、雅章、ジュース買ってくるけど、何がいい?」
「お、サンキュー。お前の驕りか?」
「残念。自前よ」
「ちぇっ、ケチ」
雅章は、ポケットから財布を取り出すと、小銭を出して私に渡してくれた。
細くて、綺麗な女の子の手。
右手の甲にある細い傷が、女の子の雅が男の子の雅章である証。
「俺、珈琲な。頼むぜ」
「わかった。じゃぁ待っててよ」
私は急いで、屋上の階段を降りた。
下の階に差し掛かった時。
「あ、あれ?どうして……」
ドクンと心臓が跳ね上がる感じがした。
ふらふらと目眩がする。
気のせいだよ…ね?
―― 気のせいじゃないよ。
「!!」
咄嗟に見上げた時、私のすぐ目の前で巫女姿の雅章が、なんと空中に浮いていたのだ。
私は驚いて、階段の途中で立ち止まってしまった。
「み…」
「そこまでっ!」
叫び声をあげそうになった私の口を、彼女が素早くその指で押さえつけた。
機先を制され、喉元まででかかっていた悲鳴を飲みこむ。
唇に当てられた、白くて柔らかい指は、人間のものとは思えないほど冷たかった。
「う……」
「裕美さん、いい? 今から指を離すけど、静かにするのよ。静かに……静かにね。
もういい? ちゃんと話はするから、ゆっくりそのまま、息を吐いてくれる?」
私は、雅章によく似た女の子の迫力に負け、大人しく頷いた。
言われたとおりに息を吐いていくと、少し落ち着きを取り戻せた。
それを確認したのか、約束通りに手を離してくれた。
「ごめんなさいね。こんな形でしか裕美さんに会えなかったのよ」
「……雅章じゃないの?」
目の前の少女は頷く。私は彼女を見つめた。
空中にいる少女は、純白の巫女服を着ているが、その生地は極端に薄く
体のラインがはっきりとわかる。
ふたつの大きな胸の膨らみと丸みを帯びた綺麗なライン。
引き締まった腰にすらりとした長い脚。
殆ど全裸に近いけど、少女の落ち着いた様子を見ると別に気にならないらしい。