勾玉キッス☆ 58
空中を鋭いスピ−ドで飛ぶ御札は、鋭利な刃物のように魔物に向う。だがヤツは、余裕でかわしてしまった。
地面に突き刺ささった札は、すぐに煙と化してしまう。
「フン、まだまだ未熟だな。俺には止まっているようにしか見えんぞ」
あれで余裕かよ。そう思っている内にミヤビが猛然とダッシュする。
どうやらヤツの懐に飛び込むつもりらしい。
「はぁああーーーー!!」
声を上げ、指に力を込めて、ミヤビは魔物の額に御札を張ろうとした。
だが…
「おっと。お前、そんなに離れていいのか?ククッ、雅を忘れてないかい?」
「…なっ!?」
「しまった!雅章君!」
一瞬の隙。ヤツは、両手から何やら強力な力で、ミヤビを近くの岩の方に飛ばした。
まずい!彼女の先にはでかい岩が。
俺は思わず叫んでしまった。
「ミヤビーー!!」
ミヤビは庭園にあるでかい岩に叩きつけられた後、ボールのようにバウンドしながら身体が宙に浮く。
「きゃあああ」
悲鳴の後、地面に落ちたミヤビはぐったりとしてしまう。
「クク…脆いな。さてと…」
「…なっ!?」
一瞬の硬直。ヤツが素早く俺の目の前に。
呆然としていた俺は、そのままヤツに抱きかかえられてしまう。
「くそ、てめぇ。は、離せよ!!」
ジタバタとするが、なんて力なんだ。
ちくしょう。俺が完全な男だったらぶっとばすのに。
俺は何とか離れようとするが、がっちりと押さえられてしまう。
「……綺麗」
ぽつりと言う魔物。
「雅ちゃんってなんて綺麗な子なの。お姉さん嬉しいわ」
な、何を言ってやがる。コイツ…麗華姉ぇの声で言うなぁ。
ふふっと笑みを浮かべながら魔物は、俺に顔を近づけた。
「やめろ。俺をどうする気だ?」
「ふふっ…怖がらなくていいわ。あなたは綺麗な女の子。大人しくしなさい」
「や、…お、俺は男だ!女じゃない」
「…うふふっ、駄目よ雅ちゃん。いずれあなたは、自分からオトコを求めるようになるわ。
その時が御館様の復活であり、これはそのためのお呪いなのよ」
ゆっくりと唇が重なる。トップモデルのように美しい麗華姉ぇの顔。
コイツは、麗華姉ぇの姿をした魔物なんだ。
でもそうやって頭で考えても俺は、目の前の麗華姉ぇを逸らす事は出来なかった。
「やん。んふ…」
抵抗することもなく俺は、ヤツに組み敷かれ唇を奪われた。
この時、恐怖でわからなかったけど、目からは一筋の光沢が尾を引いていた。
「んん…ちゅぷ…はふ…」
俺は懸命にヤツの唇から逃れようとした。だが、ヤツは舌を侵入させながら
俺の胸を揉みはじめたのだ。胸からくる甘い刺激によって体がだんだんと熱くなっていく。
悔しいけど、このままヤツのキスにうっとりしてしまう。
「ん……はぁ…」
暫らくして唇が離れる。俺に被さっていたヤツが立ち上がった。
身体が自由になる安心感とともに、俺は物足りなさを感じていた。