勾玉キッス☆ 6
「ダメよ起きあがっては。そのままジッとしてなさい。」
裕美はそう言いながら俺を制する。
「俺…どうしたんだっけ?」
直前の記憶が蘇らないので、思わず彼女に訊ねると、
「どうしたのよ?道場の前で倒れちゃってさぁ。びっくりしたんだよ。」
と裕美は俺に説明をした。
裕美の話では、道場の前で倒れた俺は、そのまま保健室へと連れて行かれたものの、なかなか意識が戻らないので、心配していたとのことだった。
外はもう真っ暗だ。ふと彼女の方を見ると、目が赤い。
余ほど俺の事を心配してくれたのかは、想像できる。
「すまない。俺…黒い霧に囲まれてさ…」
「黒い霧?そんなものは、なかったわよ」
そんな馬鹿な。さっき俺はそいつに巻かれて…
それとも俺…まだ寝ぼけているのか・・・?
「暫らく寝てるといいわ。先生には、私から言っておくから」
「ああ…たのむ。」
裕美が外に出てバタン!!と保健室のドアが閉まる。
俺はベッドの上で心を落ち着かせながら、今までの事を整理してみた。
確かに声に導かれて…そして…霧に…そこから先が思い出せない。まさか…そんな。
「くそ…!!」
何も思い出せない頭を使ってもしょうがない。
俺はベッドから起き上がると、顔を洗いに、保健室にある洗面台の前に来た。
……はて?
おかしい。洗面台が妙に高く感じる。なんかこう…目線が低くなったような…
「…………???」
首を傾げる。鏡に写っているの…顔が俺ではない。そう、よく見れば…女だ。
瞳がくりくりと大きく、輪郭が小さい。顎が細く鼻筋がすっきりと高い。髪が腰まで延びて…って、おかしい。俺の髪ってたしか、ミドルだったはずだ。
いや、マテ。
ずいっと顔を近づけて、鏡を見つめる。この顔…はて…どこかで見たような?いや、もっと前に…うん、凄く可愛い。俺の彼女にしたいくらいだ(おいおい)
「アハハハハ。そうか、女が写っているんだ。アハハハ、女……」
額に手を当てて笑っていた俺は、妙な違和感に気が付く。
そう…鏡に写っている女が、俺と瓜二つの動きをしていたからだ。
試しに右手を上げてみた。すると、女も右手、つまり鏡から見て左手をあげているではないか!
……つう事は、この女は…俺?
ククッと口に手を当て、含み笑いをする俺。
馬鹿馬鹿しい。俺は正真正銘の男だし、そんな事ってぶっちゃけありえな〜い!