勾玉キッス☆ 38
「ちょっと、待ちなって」
そう言って、俺の腕を掴む
「は、放せよ!」
振り払おうとするが、女になったせいで力も落ちているため、力の差は歴然だった
「そんなに冷たくしなくても、いいじゃん少しぐらい」
男は俺の腕をひっぱって引き寄せようとする
や、やだ…誰か……
俺が恐怖を感じた。その時
バシッ!
「痛っ!」
何かが男の腕を叩いた
「いやがってんだろ。放せよ」
声のした方を見ると裕樹が竹刀を持っていた
「何すんだ!」
男は裕樹に向かって叫ぶ
「嫌がってんのを無理やり引き止めたのはそっちだろ!」
「ちっ…なんだよ。ダセェ」
男はそう吐き捨てて去って行った
た、助かった……
「大丈夫ですか?雅さん」
ほっとした俺に裕樹が声をかける
「あ、ありがとう。裕樹くん…」
女言葉で話すのに戸惑いながらもお礼を言った
その時…
「雅、大丈夫!?」
「雅章くん、大丈夫だった!?」
向こうから俺を捜していたのか裕美と清美さんがやって来た
「う、うん、大丈夫…。それよりも、清美さん、どうしてここに?」
「裕樹くんが帰って来たから診療所をお休みにして一緒にお買い物してたのよ♪
でも、はぐれちゃって捜しているうちに裕美ちゃんに会ったのよ〜」
「そ、そうですか…」
それでいいんだろうか…
「ところで雅、本当に大丈夫?」
心配そうに裕美が声をかける
「腕を掴まれただけだし裕樹くんが助けてくれたし」
「裕樹、なかなかやるじゃない」
「う、うん。それよりも姉ちゃん…さっき、雅さんに母さんが“雅章くん”って…」
『あ』
俺と裕美の声がハモる
まずい…誤魔化さなければ…
「裕樹くん知らなかった?この娘、雅章くんよ」
そんな思いも空しく清美さんはばらしてしまった
(オイオイオイ!)
一瞬何のことかと呆けている裕樹。
次に口元を震わせながら……
「う、うそ。み、雅さんが…雅(みや)兄ちゃん?」
「あちゃ…」
俺は肩を落とし額に手をあてる。
裕樹にバレてしまった。…どうしようどうしよう。
「あらあら。雅章くん、まだ裕樹くんには、昨日女の子になった事を言ってなかったの?」
ダメ押しとばかりに清美さんが横から声をかけた。
流石に裕樹も驚いた表情で俺を見ている。
「もぉ。お母さんったら余計な事を・・・」
「ええ!?裕美ちゃん、まさか裕樹くんには、内緒にしてたのぉ?」
「まったく…お母さん、ちょっとこっちに来て」
「わわっ…裕美ちゃん」
これ以上喋り出さないように裕美が清美さんをこの場から引っ張っていく。
俺と裕樹は、ショーウィンドの前で黙ったまま俯いていた。