勾玉キッス☆ 36
「どうしたの雅?」
「うん…誠のメールを見てたら…急に…な…」
「そっか…じゃこれから何か食べに行く?」
「あ…まぁいいけど…」
「じゃ決まりね…そう言えば此処って…」
「此処って?」
「…何でもない…さぁ行こ」
「行こって…お、おい!」
俺が裕美に問い詰めようとするが裕美は結局はぐらかし俺の手を引っ張り違う場所へと向かった。
ちなみに誠にはこう返信しておいた。
『すまん!今日は裕美と用事があるんで行けない』
月曜に会うのが怖い…
誠は女になった俺の事を軽蔑するだろうか…
それとも同情してくれるかな…
俺は再び高まり始めた感情を抑えながら携帯を閉じた。
そんな思いとは別に、裕美は俺を引っ張ってどんどん進んでいく。
「こらこら。どこに連れていくんだよ?」
「ふふ…ナイショ」
内緒って…まったく。
ずーと手を繋いだまま歩いているわけだし、いい加減疲れてきた。そう思った時。
「雅、さっきの場所を思い出さないの?」
「はぁ?何言っているんだよ。わからないよ」
「鈍いなぁ。もぉ…」
裕美は、周りを見ている。
休日とあって、公園内には子供連れの家族が多い。
子供達は皆母親らしき若い女性の傍に引き寄せられながら、もがくようにしてはしゃいでいる。
元気いっぱいな子供達を見ると…
「…あっ!」
俺は思わず言葉を失う。
そうだ。あそこは…
―― 裕美と初めて会った思い出の場所。
「やっと思い出した?まったく…」
裕美がニヤニヤする。わ、悪かったな…思い出さなくて。
一瞬逸らしていると、裕美が立ち止まって覗き込んでくる。
「うふふ。あの時の雅ったら、男の子なのに女の子の服をよく着せれていたもんね。あは、今もそうだっけ」
「う、うっさいな。もぉ…」
ぷいっと俺は頬を膨らましながら、長い髪を優雅に掻きあげた。
その仕草が女の子そのものだとは、この時気が付かなかったけど。
「ん?」
目線を感じた俺は、思わず後ろを振り向いた。
あれ?今俺の事を見ていたような…
周りを見れば、子供達が走り回っている。
「どうしたの、雅?」
俺の様子に心配したのか、裕美が声を掛けた。
「今、俺の事を誰か見ていなかったか?」
「え?」
裕美が辺りを見回す。
「誰も見てないわよ」
「おかしいな。たしかに…」