勾玉キッス☆ 3
「へいへい……俺が嫌だって言ったら?」
「問答無用。約束したから放課後、道場に来てよね。」
実は彼女、拳法の達人。幼少の頃からよく手合わせをしているが、演舞や試合でもなかなかの腕前。
綺麗で爆乳の持ち主なのに、そのくせめっちゃ強い。
「わかったよ。まったく、かわいくねぇえええ!」
絶叫ともわからない声が、教室に響く。するとクラスメイトの何人かがこちらに振り向いているではないか。俺がギロリと睨むと、そそくさと顔を伏せている。
「なんだよ、雅章。また裕美ちゃんに虐められたのか?」
そう言いながら、俺の側に来る一人の男。
火浦 誠 (ひうら まこと)
俺の親友であり、ライバルでもある。
鼻筋が整ったイケメンで、どちらかと言えば、今時珍しい古風な雰囲気を持つ男。
常に腰には、『霧蜘蛛丸』という日本刀を持っているのも特徴だ。刀って…おいおい、法律違反じゃないのか?
「んにゃ…別に。それよりも誠、お昼どうする?」
「ああ、いつものように、セバスチャンが届けてくれるから心配するな」
「相変わらずだな…お前とこは」
「なぁに、これくらい朝飯前だ」
こいつは、日本でも有数の財閥、火浦グループの跡取り息子。
何でもグループ総資産が数十兆円といわれる大財閥だもんな。
お昼になれば、いつも1人では食べきれない弁当を執事に届けてもらっているくらいだし。
まぁ、かく言う俺もヤツの豪華な食事に便乗させてもらっているけどな。
「じゃぁさ、俺の分も頼むよ」
「おう。いつでもいいぞ。」
「駄目よ。まったく…雅章は、いつも貰ってばかりじゃない。」
裕美がちゃちゃいれる。いいじゃんか、減るもんじゃないし。
その時。
―― ミツケタ。
「……え!?」
不意に声がしたので振り向く。見れば、いつもと同じ教室の光景。誰も俺に話しかけた様子も無く、振り向いてもいない。
「どうしたの?」
「いや、なんでもねぇよ。」
誰だろう?今の声。いきなり言われても何の事だかわからない。
俺は納得しない気持ちではあったが、再び2人の何気ない会話に入っていた。
俺は17年間、ごく普通?に生きていた。クラスの連中とも上手くいってたし、こうして裕美や誠とも仲良くやってきた。まあくだらない悩みやトラブルがなかったわけじゃないけど、それでもなんとかやってきた。
でも…それが、どんどん変わっていく…
自分が―― そして周りも。そんな事が起きるなんて、夢にも思わなかったけど。