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勾玉キッス☆
官能リレー小説 - 性転換/フタナリ

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勾玉キッス☆ 119

「女の子に見えるわ」
「はあ?」

 歓迎できない一言に思わず顔をしかめてしまった。

「怒らないで。動きが今の体になじんできたように見えるの。悪い意味じゃないのよ」

 そうは言っても、女の子らしくなったと言われて喜べるものではない。
 だが、彼女の言葉に納得するところはあった。

「あー……ルオのレッスンがきいたかな」
「れっすん?」

 首をかしげるミヤビに、俺はプールでの出来事を語って聞かせた。
 水が渦巻いた現象についても。ミヤビなら説明を付けられる気がしたのだ。
 ミヤビは不思議な顔ひとつせず、うんうんとうなずいた。

「武術は『気』を御する近道だものね。歌舞や祈祷と同じくらい有効よ。いい方法を見つけたわね」
「『気』ねえ……」

 中国武術で言うところの『気』は少年漫画で出てくるような不思議パワーではない。
 だがたまにそういうものと結びつけて適当なことを言う連中がいる。
 ミヤビの言うのもその眉唾ものの『気』のように聞こえた。

「俺にはあんなオカルトパワーないぜ。稽古で変なこと起こったことねえし」
「それは女になったせいよ」

 やけに確信的な口調でミヤビは言った。

「……そうなのか?」
「私はね、雅章くん」

 ミヤビは言いながら胸に手をあてて自分を示した。

「私、封印の巫女ミヤビは完全な人とは言えなかったの。人の側についたけれど、本質は私が封印したあれらに近かった」

 それは一つの、とても重大な告白だったが、その重さに反してミヤビの声はとても静かだった。

「巫女ミヤビとはつまり、陰の気の凝りのような存在なの。陰とはつまり陽に対するもの。太陽に対する月、光に対する闇、ハレに対するケガレ、清に対する淫……男に対する、女」

 ミヤビの冷たい指が俺の頬を撫で、唇に触れる。

「雅章くんは男の子だから、巫女としての力は発現せず眠っていたの。男は陽の気が強くて、巫女の力はその肉体になじまないから」

 そこで、ミヤビはまたクスクスと笑った。笑うような場面とは思えなかったが。

「女が完全に陰であるわけではないのよ。人間の肉体とはそれだけで活性する陽の気を持っているしね。生きているものは皆、陰陽が混在してできている」

 生きているものは皆?
 妙な言い方だ。それでは、ミヤビはまるで……

「私は、陽の気を得て陰陽混交の、まっとうな人になる方法を探していた」

 ミヤビは目を閉じ、ほとんどささやくような小声で言った。
 俺は聞き取るために、これほど密着していながら、顔を彼女に近づけなければならなかった。

「……どうすればいいかあなたにはわかる? 雅章くん」

 答えを待っている口調ではなかった。ミヤビは続けた。

「わかる? ……なぜあなたが男に産まれたのかも」

   ***

「ミヤビ、どういう意味……」
 口を開くまでに、たっぷり一分間はあった。何も考えられなかったのだ。ミヤビの言葉には、預言とか、神託とか、そんな宗教がかった神秘性があった。
 腕の中にいるのは瀕死の白鳥のように華奢な、弱った少女にすぎない。
 けれどその神性(それとも魔性?)は俺の言葉を失わせた。

 彼女には絆を感じる。確かに彼女との間には、血縁以上の近しい何かがある。
 そう感じるのと同じほど、俺は恐れも抱き始めていた。彼女という存在に対して……そして、彼女と同じモノだという俺自身に対して。

 沈黙の間に、今度こそミヤビは眠ったようだった。
 帰宅したじいさんと、すっ飛んできた麗華姉ぇに騒々しく引っ張り出されるまで、俺はずっとミヤビを見つめていた。


   ***


あれから麗華姉ぇやじーさんとの騒がしいやりとりがあったわけだが。
とりあえずミヤビが寝てしまったのと、夜も遅くなったので、じーさんの屋敷に泊まる事になった。

遅めの夕食の後、俺は入浴のために女湯の暖簾をくぐった。

「ふう…」
 
最初に膝下、続いて下半身……と、徐々に身体を慣らしてから、全身を湯船に沈める。
お湯の熱が全身に染み渡っていくようで心地いい。お湯の水しぶきに、浴場には薄らと湯気が立ち上る。
上を見れば、視界に広がる白い天井。大浴場の蛍光灯の眩しさに、わずかに目を細める。
 
「今日はさながら、一生分の出来ごとが起きたって感じだったなぁ」
 
初めて女子高生として登校、クラスメイトとの再会と戸惑い
屋上で幻姫に襲われたことやプールでの出来事。

そう言えば、ミヤビの言っていた言葉が気になるな。
『わかる?……なぜあなたが男に産まれたのかも』

「・・・・」

陰と陽…ふたつが混じる存在がミヤビの願いって言っていたけど…
もし封印の巫女が魔物と同じケガレだとしたら…

そう考えた時、弱々しい様子でのミヤビの色っぽい表情が浮かぶ。

「…あっ」

思わず頬に熱が籠る。

いかんいかん。ミヤビとはエッチの事じゃないのに…なんで紅くなるんだ?
ぶるんぶるんと長い髪をまとめた頭を左右に揺らす。
そうだ、ここは気持ちを切り替えて…

「はぁ……やっぱここは,広いなぁ」

ここはじーさんの屋敷の中にある大浴場。
瓢箪型の浴槽はさながら小さめのプールって感じだ。

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