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勾玉キッス☆
官能リレー小説 - 性転換/フタナリ

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勾玉キッス☆ 117

 さすがというべきか……
 たまにドジもやるルオだが、自分の専門分野となると目は確かなようだ。

「自己紹介のとき、親戚だと言てたが」
「あ、そう。そう、従兄なんです、雅章くん。雅章くんが海外に行ったんで、入れ替わりに私がこっちに」

 麗華姉ぇと裕美が頭をひねって作った『設定』を、しどろもどろになりながら語る。
 ルオは俺の我ながら不自然な様子を気にも留めずに、
 
「雅章はずいぶん急に発たあるな。アイサツもなしとは薄情なやつね」

 軽く憤慨した調子でそう言った。
 そりゃそうだ。
 もしこんなのっぴきならない状況でなく、本当に『設定』通りの中期旅行なら、俺だって仲の良い連中に挨拶くらいして行っただろう。

「はあ、すみません……」

 小声で思わず謝ってしまう。
 ルオは怪訝な顔をしたが、幸い追及してこなかった。
 彼女はころころ変わる好奇心の矛先を、今度は裕美に向けたのだ。

「裕美は? 見送りには行たか?」
「え? えーと……」

 急にきらきらした目で質問されて、裕美は珍しく面食らった顔だ。
 彼女が答えを探しているうちに、ルオはひとり納得したように笑った。

「裕美が行かないわけがなかたな。で? どうだたか? お別れのチューくらいはしたあるか?」

 人の悪いニマニマ笑いでとんでもないことを言い出す。
 俺は自分の動揺より先に、裕美が怒り狂うのではないかと心配になって彼女を見た。この手のからかいは苦手なはずだ。自分はするくせに。
 だが予想に反して、裕美はしばらく押し黙っていた。
 そればかりか、みるみるうちに目がうるみ、顔が赤くなってくる。
 どう見ても照れている。これは可愛い……かもしれない。

「ろ、老師! なんてこと!」 何かエスカレートしたことを口走ろうとするルオを、裕美があわてて止めに入る。
 いたずら心が湧いてしまったのは、男として仕方のないことだった。

「えー? 裕美さん、もしかして雅章くんのこと……」
「雅も黙りなさい!」


   ***

「トンにずいぶん懐いたねえ雅ちゃん」
「へ?」

 着替え終わって教室へぞろぞろと歩いていると、背後から声をかけられた。
 少年ぽい、けど丸みのあるやわらかなハスキー。神村だ。

「雅ちゃんと桐生って従兄妹同士だったんだ?」

 さっきのルオとの会話を聞いてたのか。

「前に会ったときは双子って言ってたような気がしたけど」
「いやあ、それは……」

 そういえばこいつには双子の兄妹だと勘違いされたままだった。玄関先で会って、行き当たりばったりにそう答えてしまったのだ。

「双子みたいなものというか、その」
「ふうん」

 神村はおかしそうに口の端をあげた。

「もしかして警戒されちゃったのかな? いいよ、気にしないで。ところでさ」

 ところで、と神村はなぜか少し間を置いた。

「彼。桐生は何しに海外に行ったの?」
「それは……雅章くん、家族が向こうにいるんで、会いにというか」
「本当に?」

 まさか念押しされるとは思わなくて、俺はびっくりして顔を上げた。
 神村は、軽い口調に似つかわしくないまじめな表情をしていた。何を聞きたいんだろう? 真意をはかりかねて、俺はこう言った。

「神村さんは、あの日何しにうちへ来たんだ……ですか?」

 神村は目をぱちくりさせた。

「あ、逆質問? 心配しなくても、別に押しかけ告白しに行ったわけじゃないよ。もちろん、ボクあいつの彼女でもないし」

 ……そりゃそうだ。

 神村は2、3ヵ月前に神城高校に転校してきたばかり。
 最初は背が高くてとっつきにくい女の子かと思っていたが、話してみれば、性格はサバサバしているし
  人当たりもいい。特撮が大好きだった事は、意外だったけれど。

「ただ…転校したばかりだったんで、挨拶に行こうと思ってさ。ボクの家は彼のうちの近くなんだよ」

「そ、そうだったんですか。わ、私も雅章くんの所に来たばかりで…ちょうど、彼とはすれ違いだったんです」

「ふうん、そうなんだ」

 辺りさわりなく言ったつもりだが
 表情が真剣な神村は…

「雅ちゃんってさ、女の子なのに、なんとなく桐生に似ているんだよね。仕草がそのまんまだし、最初、見た時は
桐生が女装したのかと思ったよ」

「えっ!?」

 俺は高鳴る心臓を抑え、気付かれないように平静を装いながら神村に答えた。

「そうですか?よく言われるんですよ。私が雅章くんにそっくりだって。たぶん小さい時に一緒にいたからだと思うんです」

「小さいときに、か」

 何か含みのある言い方で神村は繰り返した。何なんだ一体?

「桐生には妹がいるって聞いてたから、雅ちゃんがそれなのかと思ったけど違ったね。……そっちとも似てるんだろうね」
「え? ええまあ」
「雅ちゃんは兄弟は?」
「い、いえ」

 『設定』では雅(俺)は一人っ子だ。幼少期は俺(雅章)の家族のご近所で育ち、裕美とも幼なじみ。

「如月先生は桐生の母方の従姉だよね? キミも如月先生の従妹で、名字違うってことは母方の血筋だよね。でも桐生と同じ名字なんだ」
「え?」

 つぶやきのような言葉を噛み砕くのに少し時間がかかった。
 確かに小さな齟齬が生じている。
 麗華姉ぇとはいとこ同士ではないことに……とちらりと考えたが、クラス名簿に登録された桐生雅の住所は彼女と同じになっている。
 血のつながらない遠い親戚をホームステイさせることもありえなくはない。
 が、問題は、俺と麗華姉ぇが血のつながりを否定できない程度には似ているということだ。
 男の俺でも昔から目元が似ているの眉が似ているのと言われまくっていた。
 その上こうして女になってみると、男という先入観がとれた分よけいに似て見えるのだ。

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