PiPi's World 投稿小説

勾玉キッス☆
官能リレー小説 - 性転換/フタナリ

の最初へ
 111
 113
の最後へ

勾玉キッス☆ 113

 びくんと体が跳ねる。

「ちょっと老師!」

 珍しく黙ってみていた裕美が、たまりかねたのか制止の声を上げた。
 ルオはびっくりしたようにぱっと手を離した。うふふ〜と笑ってごまかそうとする。
 もっともらしいことを言いながら悪乗りしていたようだ。
 彼女はぐいと体を持ち上げると、プールの淵に座って俺と向かい合い、こほんと一つ咳払いした。

「ますぐ立つにも雅ちゃんは背筋や股関節に力入りすぎね」

 言われて俺は、肩の力が抜けていることに気づいた。逆に今までずいぶんこわばっていた事実にも。
 それでいて水中での直立はずっと楽になっていた。

「おかしな話あるが、雅ちゃんはまるで、胸が全然なくて骨盤の閉じた、筋肉いっぱいあるカラダの人みたいな立ち方ね」
「つまり男みたいな……?」
「ソーソー、男のカラダからいきなりおっぱいボーンの女の子になたみたいヨ」

 大当たり、だ。
 俺は思わずギクリと肩をすくめた。振り返った先で裕美も戸惑い顔だ。
 ルオは気づかず、考えながら講釈を続ける。

「でも実際は筋肉ないから、ヘンなとこに力入ってバランス悪いね。水は気より重たいから、それがはきりわかるある」

時折、ルオは俺の方を見て話すが、どうやら正体がバレたわけではないようだ。
ほっと胸をなでおろす。

「雅ちゃん、もう少し体をほぐす必要があるようね。ワタシが思うに、教室にいた時でも動きが遅かったヨ」

たしかにそうだ。

魔物の呪いで女になった俺は、いつもの感覚で体を動かしていたようだ。
男の時は、胸元に谷間が出来るくらいでっかい胸なんて付いてなかったし、体の線も細くなかったもんな。
歩き方でも、短いスカートを気にして内股ぎみだったよな。そういえば、屋上で幻姫に襲われていた時も
妙に体の動きが鈍かったような気がする。

「この場合は、水の中で歩き方から直すよろし。今のままでは体の負担が大きいあるョ」
「老師、それってリハビリって事なの?」

裕美がたずねてくる。
ルオはうんうんと頷いた。

「泳ぎを覚えるよりも、水の中で体の姿勢とかを意識して直せば、ずっと楽になるのよ。見たところ、雅ちゃんは飲み込みが早そうだから
すぐに始めるよろし」
 
うーん。ここはひとつ、ルオの提案を受けるか。
水の中とはいえ、でかい胸はぷかぷか浮いてくるし、そのせいで立っているのがやっとだった。 
これ以上、女の体に振り回されるのも嫌だしな。

「そ、そうですか。そ、それじゃルオさん、よろしくお願いします」

しどろもどろになりながら、ぺこりと頭を下げる。
ルオはにっこりと微笑みながら俺の頭を撫で撫でし始めた。

「素直でよろしいある。雅ちゃんのような可愛い子はワタシ大好きあるヨ」
「は、はぁ…それはどうも…」

今は女の姿とはいえ、男の時は、ほとんど話さなかった相手から好きと言われてもなぁ。 

お、おい。なんだよ…その期待に満ちた表情は。

なんだか別の方向にいきそうな気がするけど…

その時、ぱんぱんと手を叩く音がした

「今の話、聞かせてもらったわよ」

プールサイドから聞こえる魅力的な女性の声。
麗華姉ぇの声だ。い、いつのまに…
「れ……如月先生…?」

 恐る恐る見上げると、麗華姉ぇがプールサイド、俺の真正面に立っていた。
 ぎゅっと締まった腰に手をあて、長い脚を肩幅に開いた迫力たっぷりの仁王立ちだ。

「おもしろそ……じゃなくて! 学習プログラムとして興味深いわ! あたしも噛ませてもらおうじゃないの」

 教師らしく言い直したが、言い直す前のが本音なのは明らかである。
 俺はため息まじりに言ってやった。

「先生は全体の監視責任があるっていうお話じゃ」
「うっ」

 うっと呻いて固まる。この麗華姉ぇの反応。
 面白そう、と何も考えずに反射的に立ち上がってきたのが丸わかりだ。
 麗華姉ぇはしばし固まったまま立ち尽くしていた。

 教師としての義務感と、娯楽への欲求がせめぎ合っているに違いない。本来せめぎ合うべき二項とは思えないが。
 なんだかんだ言って俺は気楽に構えていた。
 このまま麗華姉ぇのいじりに合わず、裕美とルオと目立たずプールの隅でリハビリしていられるはずだ、と。
 麗華姉ぇのことは小さいころからよく知っている。
 最終的に教師としての義務が勝利をおさめると、俺には確信できていた。

 ……はずなのだが。
 たっぷり十秒間の懊悩ののち、俺の予想に反して麗華姉ぇは微笑んだ。それはそれはうれしそうに妖艶に。
  嫌な予感。
「麗華ね……」
 何かとんでもないことを言い出す前に、と呼びかけようとしたが遅かった。
 麗華姉ぇはすう、と息を吸い込むと、ピィィと鋭くホイッスルを鳴らした。
 必死でノルマ達成にいそしんでいたクラスメイトたちが、一斉に何事かとこちらに注目する。 
 注目が集まったことを確認してから、麗華姉ぇはよく通る涼しい声を、空間いっぱいに響かせた。

「はーい、みんな! 一時中断して第一レーンの周りに集合してちょうだい!」
「麗華さん!?」

 何を始めるつもりかと、裕美があわてた声をあげた。
 だが麗華姉ぇは答えない。嫣然と笑ったまま、集まってきた生徒たちにこう言った。

「今日は予定を変えて、トンさんに水中での太極拳運動を指導してもらいます。モデルは桐生さんね」
「ハーイ」

 のんきに手をあげたのはルオである。
 クラスメイトの視線を一身に浴びて、俺はそのまま潜ってしまいたくなった。

SNSでこの小説を紹介

性転換/フタナリの他のリレー小説

こちらから小説を探す