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勾玉キッス☆
官能リレー小説 - 性転換/フタナリ

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勾玉キッス☆ 112


「泳げない子は個人練習って決まってるのよね。手取り足取り教えてあげたいけど、あたしは全体を見てなきゃいけないし……」

 つまんない、と心の声が聞こえてくる。俺はカナヅチ疑惑に感謝を覚えた。

 麗華姉ぇといえども……というか麗華姉ぇはこんなでも教師としての責任感は誰より強いのだが……遊び心優先で授業放棄はさすがにしないということか。

「というわけだから天野さん、桐生さんを見てあげてくれる?」

 麗華姉ぇが声を高くして裕美を呼ぶ。
 本来なら委員長の片倉の役だが、彼女あまり運動が得意ではないし、裕美と俺が親しいのはすでに周知だったから、これはごく自然な人選だった。
 裕美がはいと返事して戻ってくる。俺は内心ほっとした。
 これならボロを出さずにすみそうだ。

「もう、せっかく江川先生に替わってもらったのに意味なしじゃないの」

 ぶつぶつ言いながら麗華姉ぇが頬をふくらませる。
 あんたは子供か、と内心でつぶやきつつ、目が勝手に麗華姉ぇの身体を凝視していた。
 ディープピンクの光沢のある、やわらかそうな質感の生地がシンプルに成形されて、豊満な体を覆っている。
 胸は鋭角に深くあいているし、ホルターネックの紐は細くて、セクシーには違いないが、意外と露出度が低い。
 …なんて感想も、麗華姉ぇがふと背中を見せるまでだった。
 美しく、細部にいたるまでよくデザインされたワンピース水着……それは正面から見ての話。
 カップに沿って縫いこまれたラインが、途中から…乳房の付け根ぎりぎりの線から細い紐だけになって背中で結ばれている。
 下半身も同様で、端的に言ってしまうと、サイドとバックはほぼ裸だ。
 こんな水着、洋モノサイトで見たことがある……
 ギャップとヌード感において、ある意味俺のビキニよりよっぽどエロティック。
 これで下品にならないのが素晴らしい。
 なんて、我が従姉を絶賛するのも恥ずかしいが、事実だから仕方ない。
 こんな色は麗華姉ぇほど白い皮膚と淡いブロンドにしか着こなせない。
 こんなデザインはスーパーモデルのプロポーションでなければ猥褻な印象にしかなるまい。
 それがどっかの高級ブランドの一点物だなんてこと俺には知る由もない。

 ちぇー、となおもぶつくさ言いながら、麗華姉ぇはプールサイドのチェアに寝そべった。
 一応そこから全体を見守る構えでいるらしい。

 裕美にうながされて、俺は苦心して麗華姉ぇから目を離し、プールに入った。
 もちろん足からゆっくりと水に体を沈めていく。
 プールの両端は気持ち浅くできているので、俺でもギリギリで顔を出すことができた。

「じゃあ、壁につかまってバタ足から始めましょうか」
「裕美……」
「仕方ないでしょ。溺れかけたのは誰?」

 ……俺だ。
 情けない気分で俺はプールの淵につかまり、バタ足すべく体を浮かせようと底を蹴った。

「おわっ!?」
「雅っ?」

 ふわりと浮き上がる拍子にバランスを崩して、体が回転しそうになる。
 危うく水を飲みかけたところを、裕美が体ごと抱きついて止めてくれた。

「ちょっと、もっとしっかり力いれなさい」
「いや、やってるんだけど何か変な感じでさ」
「変って?」

 うまく説明できない。
 体が妙に軽くて、うまく浮力に逆らってバランスをとれないのだ。
 淵につかまる腕も力が入らない。
 それに胸だ。浮き輪よろしく浮上しようと持ち上がってきて、邪魔なことこの上ない。

「たからさっき言ったとおりね。雅ちゃん、カラダの使い方がなてないよ」

 どう説明したものか悩む俺の頭上から、中国なまりが響く。
 プールサイドを見上げると、トン・ルオファンがニイっと笑っていた。

 猫のようにきらきら光る、大きな瞳が表情につれてくるくると動く。
 顔立ちそのものもどこか猫のようだ。小さな鼻に、少しとがらせるくせのある、口角の上がった薄めの唇、追いかけたくなるような、気まぐれに揺れる視線。
 幼いようで、気持ち切れ上がったまなじりが妙にコケティッシュでもある。

 日本で武術太極拳を習得した裕美に、大陸仕込みの古い流派を指導している縁で、俺とも付き合いがあった。
 とっさにあだ名で呼び捨てしてしまったのもそのせいだ。

 男として接していたころは女というより少女の印象だったが、真っ白いワンピース水着に黄色いパーカーを羽織った体は意外と大人びている。
 胸や腰もそこそこあるし、すらりと伸びた長い手足に、ぴんと張った背筋、顔が小さくて、女性誌のファッションモデルみたいだ。
 身のこなしがそれこそ猫のようにしなやかで、一つ一つの所作の無駄のなさには、抑制された美感があった。
 男ってのは損だ。
 ルオなんかに見入ってしまって、俺は心底そう思った。
 男なんて、ルオが面白いヤツだからと構うだけで、こんなに女の子として魅力があるなんて気づきもしないのだ。
 ……それとも俺が特別鈍いのか?

 自問自答に突入した俺に代わって、裕美が尋ねた。

「老師、体の使い方って?」

 裕美はルオを老師と呼ぶ。最初は抵抗していたルオも、慣れた様子で答えた。

「うむ。すなわち立身中正。体幹がなてないヨ」

 ルオはおもむろに隣に降りてきた。

「ほら、ますぐ立てみるね」

 言われるまま、水中できをつけをしてみる。
 しかし浮きたがり流されたがる体を抑えつけるのは容易ではなかった。
 ぷるぷると筋肉に力をこめて立っていたら、ルオがぐっと肩胛骨のあたりを揉むように圧迫してきた。

「ひゃあっ」

 ぞわりと背に快い感覚が走り、うっかり変な声が出てしまった。
 すまんすまんと言いながら、ルオは手を止めずに今度は両肩を撫で下ろす。二の腕をつかんで肩を水平に回すようにぶらぶらさせる。
 そこまでは我慢したが、次は無理だった。

「ひゃうッ!やっ、やめてっ」
 ルオの手はぐいっと両の尻をつかみあげたのだ。

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