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勾玉キッス☆
官能リレー小説 - 性転換/フタナリ

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勾玉キッス☆ 110

「待ちなさい、雅。そのままでプールに行くつもり?」
「あっ、いけね」

 裕美に止められ、俺は慌てて、髪留めのゴムで髪をまとめる。
 裕美はすでに髪をまとめている。

 そして。
 俺と裕美はプールサイドに向かった。



  *  *  *



 プールサイドにはすでに大半の女子がそろっていた。
 教師の姿はまだない。みな思い思いにすごしている。
 水に入って軽く泳いでいる者。足だけをつけてバシャバシャと水面を叩いているも者。チェアにもたれておしゃべりしている者。
 体操服姿の見学者が数名いるものの、他はみんな水着姿だ。もちろん。
 更衣室とはまた違った光景に、俺はしばし立ち尽くしていた。

「ちょっと雅」

 これが俺たち男子生徒の目から厳重に隠された桃源郷…
 知らずぱちぱちと目をまたたかせていた。何だか視界にキラキラと光が散っている気がしたからだ。
 さんざめく光の中で、女の子たちが無防備な半裸姿で遊んでいる。
 その特殊効果はどうも俺の脳内でだけ起きていた。
「雅ったら。雅。……雅章!」
「!」

 低くひそめた、けれど鋭い声に本当の名を呼ばれて…ついでに軽く頭をはたかれて…俺ははっと我に帰った。

「よう裕美」
「何が、よう、よ。何ぼんやりしてるの」

 夢から覚めた心地で隣を見ると、裕美が目を細めて俺を見下ろしていた。
 男のときだって睨まれることは何度もあったはずだが、今は裕美の方が背が高い。
 背後に立ちのぼる威圧感は、以前の比ではなかった。
 言葉ばかりは問いかけの形をとっていたが、彼女が俺の呆けていた理由を察しているのは明らかだった。
 でなければ、頭をはたいたりはしなかっただろう。
 女になってからこっち、裕美はセクハラまがいの接触をのぞけばやたら優しく俺に触れた。
 別に彼女が暴力的な娘だったというのではない。ただ……ただ手に触れたり肩を叩いたりするだけでも、以前とは違ったのだ。力の込め方も手つきも何もかも。
 俺が女の子だから、だ。
 今頃、本当に今さら、俺は実感した。
「ちょっと、本当にどうしちゃったの?」

 目を伏せた俺の態度に、裕美の表情がまた変わる。
 心配そうに、少しかがんで俺をのぞきこもうとする。なんとなく、子供のころを思い出した。
 ずっと小さいころには、裕美の方が長身だった時代もあったのだ。
 なつかしくて、勝手に口の端が上がった。

「……雅、大丈夫なの? 様子が変よ。もしかして、屋上でのことまだ気になってる?」
「いや」

 笑った俺に驚いてか、裕美はまた声をひそめてそう言った。
 屋上での出来事の異常さは、もちろん忘れられるものではなかったが、俺は否と即答した。
 彼女にこの『実感』を悟らせたくなかった。

「違うよ。誠が何度もチャレンジしては玉砕してきたミッションを、簡単にクリアしちまったなあと思ってさ」
「誠っち? 何の話?」
「あいつ入学してから何度も、女子のプール授業をのぞこうと男子剣道部員を率いて涙ぐましい努力をだな」

 誠には悪いが、話題そらしのいけにえになってもらう。
 同じ男として裏切り行為になるだろうかと頭の片隅で思ったが、気にしないことにした。
 カモフラージュに段ボール箱をかぶったり木の葉を全身にはりつけて建物に近づいては、ことごとく退けられた武勇伝を語ってやろうと口を開いたときだ。
 裕美の冷えた声が俺を遮った。

「だれを率いて、ですって?」
「だから男子剣道部……っと、あっ!」

 俺は慌てて自分の口をふさいだ。
 いけにえをいたずらに増やしてしまったことに気付いたのだ。

「そう……裕樹もなのね」
「け、剣道部全員とは限らないぞ。メンバー全部聞いたわけじゃねえし」

 俺はしどろもどろになりながらごまかす。

「本当に知らねえからな!」
「あっ、待ちなさい!」

 突っ込まれると墓穴を掘りそうだ。
 なので俺は裕美から離れるべくプールサイドを疾走し、勢いづけてざんぶと飛び込んだ。

「雅っ、準備運動しないと……」

 裕美が何か叫んでいる。

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