勾玉キッス☆ 106
「じゃあ、神村さんはまだ迷ってるの?」
「いや。もう決めた。ボクだけ競泳用水着は地味すぎるからね」
神村はそう言うと、明るい色柄の水着を取り出し、あっという間に水着を着てしまった。
「どう? 似合うかな?」
神村の水着は、白とオレンジ色が交互に混ざったワンピース水着。それだけなら、森崎と色違いのワンピース水着だが、違っているのは、神村のワンピース水着は背中が大きく開いていること。以外と大胆だ。
水着の明るい色柄が長身の神村とマッチして、よく似合っている。
「どうしたの、みんな黙っちゃって。ひょっとして、似合わない?」
ハッと気付く俺。俺は神村の水着に見とれてしまっていた。
「いや、その逆。似合ってる」
「思わず……見とれちゃって」
「私もびっくりしちゃった。すごくキレイで、思わず見とれちゃった」
森崎に俺、裕美が口々に言う。
神村はまんざらでもなさそうな、というより、嬉しそうな顔をしている。
「やっぱりボクも女の子なんだな。嬉しいな、て実感するんだ」
「じゃあ、実感したついでに」
森崎がロッカーから携帯電話を取り出していた。
携帯電話はカメラモードになっている。
裕美も携帯電話をロッカーから持ち出し、カメラモードを立ち上げている。
レンズの先にあるのは……水着姿の神村。
「その水着姿、いただき!」
「同じく」
カシャリ、と音がする。
神村が撮られたことに気付くが、もう遅い。
「あーーっ! ボクの水着姿、撮ったな!
じゃあ、ボクだって!」
負けじと神村もロッカーから携帯電話を持ち出し、カメラモードを立ち上げた。
携帯電話を横向きに持ち替え、レンズを森崎や裕美、そして俺に向ける。
「傷だらけでもセクシーな姿と、清楚でセクシーな姿、そして、けしからん乳を見せつけているその姿、みんなまとめていただきだっ!」
カシャリ、と音がする。
この瞬間、女としての俺の姿が記録されたのだが、そんなことを気にする余裕がない。
「もう1枚。雅ちゃんの、そのけしからん乳を見せびらかすいけない水着姿、いただきっ!!」
「だったら私も、もう1枚」
「ちょっとダメよ、2人とも。雅は見せ物じゃないのよ!」
神村と森崎がレンズを俺に向け、立て続けにカシャリ、と音がする。
裕美は神村と森崎を止めようとしているのだが。
おいこら、裕美! どさくさにまぎれて俺を撮るな!
ま、まさかお前、最初からそのつもりで神村と森崎を止めたんじゃ……
気づいた時には手遅れで、ちょっとした撮影会になってしまっていた。