勾玉キッス☆ 105
「傷あとが何だ。醜いがどうした。それが何だっていうんだ。森崎さんは森崎さんだよ。だって…森崎さんはキレイじゃないですか?」
俺は一気にまくしたてていた。男言葉が混ざろうが、関係なかった。
森崎は、ふっ、と嬉しそうに顔をほころばせていた。
「そう言ってくれるの、桐生さんが初めてかな。本当は、男に言われたかったんだけど。
でも嬉しいな。本当、嬉しい。
私も、今度はビキニみたいな際どいのに挑戦してみようかな」
森崎はずっと、嬉しそうな顔をしていた。
「…そう言えば」
何かを思い出したのか、森崎が口を開く。森崎の視線の先には、神村がいる。
神村は、アンダーショーツのまま、袋から水着を取り出そうとしていた。
「神村ぁ。お前、人の水着を聞いたり覗いたりしている割には、自分の水着を見せてないよなぁ。
見せてくれたって、バチは当たらないよなぁ」
…言われてみれば。
確かに神村は、俺の胸を「けしからん」と言って揉んだり、森崎の水着を聞いたり、俺の着替えを覗いたりしているくせに、いざ自分自身となると、何の水着を持って来たのかも言っていない。
それに気付くと、妙に気になる。
「あっ。言われてみれば」
「そうよね。神村さんの水着、まだ見せてもらってないよね」
俺と裕美が口々に言う。
神村の手がピタリと止まる。そのままふり向こうともしない。
「ボク? これだけで泳ぐつもりだけど」
「ウソつけ。だったら袋の中身は飾りか? ジオ○グの足か?」
「それは聞き捨てならないなぁ、森崎。君はボクに一回り小さいスクール水着を着ろと言うのかい?
……分かったよ。雅ちゃんが喜ぶなら、ボクは着るよ」
「俺…あ、いや、私、そんなこと言ってないですけど」
「何だって雅ちゃん。ボクに赤ふんどし一丁で泳げって言うんだね?」
「ボケ倒すのもいい加減にしなさい!」
再び神村の頭に裕美の鉄拳が飛んだ。
鈍い音が更衣室に響き、神村は殴られた頭を押さえている。
「うぅっ……天野さん、暴力反対」
「ボケ倒そうとしたあんたが悪い!」
裕美がハッと気付く。
「もしかして、神村さん。本当に水着を持って来てないんじゃ……」
「ボクが本気で“これ”で泳ぐと思った?」
「「「思った」」」
俺と裕美、森崎がうなずき、見事にハモる。
神村は少しムッとした顔になる。
「ひどいなぁ。あれはほんの冗談なのに。水着はちゃんと持って来たってば」
「だったら見せてくれてもいいじゃないか。減るもんじゃなし」
「う〜〜ん。どっちにしようか迷っちゃって。みんなの水着を見て決めようかなって思ったんだ、本当のこと言うと」