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蒼海の戦乙女たち
官能リレー小説 - 戦争

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蒼海の戦乙女たち 9


その後の航海は順調に進んでいった…。
ホープ岬を越え、レクットを経由し、ダフリカ大陸の東側…ライド洋を北東へと進む…。


やがてエスメラルダ号は、ローランドがエジアに持つ最大の植民地…ライディアへと辿り着いた。
ちなみにライディアは“カレーの国”である。
このライディアを支配下に置いて以降、ローランド王国の君主は“ライディア皇帝”も兼任するのが常となり、各地の植民地と併せて“大ローランド帝国”と称するようになった。

エスメラルダ号はライディアの港町に入港した。
軍港も兼ねたその港には多くの軍艦が停泊している。
その内の一隻(の精霊)がエスメラルダに話し掛けて来た。
「あなた、ずいぶん古いタイプねぇ〜。今どき帆走ぉ?」
「そう言うあなただって時代遅れの外輪船じゃない。本国の方じゃあ今はもうスクリュー推進が主流よ」
「な…何ですってぇ!?」
外輪船…つまり左右に巨大な水車を付けた船(黒船みたいなやつ)は、舷側に並べる大砲の数が制限されるので、軍艦には不向き…という事でスクリューが実用化されるや否や急速に時代遅れになってしまった。

一方、アルフレッドはヘインズマンと甲板から港の様子を眺めていた。
ライディア人の人夫達が一生懸命に船から荷を下ろしたり積み込んだりしているのをローランド人の監督が鞭を片手に目を光らせている。
アルフレッドはふと疑問に思って言った。
「…ダフリカでも似たような光景を見ましたが、あの人達、自分達の祖国の現状をどう思ってるんでしょうか?僕が彼らだったら自分達が異人種の支配下に置かれている現状になんて耐えられません。銃を取って支配者と戦いますよ…ローランド人としてこんな意見を持つのはおかしいんでしょうけど…」
「いや、おかしくないよ。至極もっともな意見じゃ…だが実際に彼らの立場になってみても果たして同じ事が言えるかな?…たぶん彼らはお前さんが今言ったような高尚な事なんぞ考えておらんと思うぞ?…いや別に彼らが阿呆だと言いたい訳じゃないがな…その日その日を生きるのに必死な人間に祖国とか人種とか差別なんて考えてる暇なんて無い…意識がそこまで行かんじゃろ」
そもそもローランドがライディアの前王朝を滅ぼして支配下に置いてから既に半世紀近く経過しているのだ。
今や植民地時代しか知らない世代が大半…というかそれ以前からローランドはライディア支配を少しずつ推し進めて来た。
もう“ローランド人が上、自分達は下”という認識がライディア人達の意識に染み着いている。
ちなみに植民地になる前のライディアには数千年来の厳格な階級制度があり、特に下層民は徹底的に差別されていたが“ローランド領ライディア帝国政府(つまり総督府)”は、その階級制度を撤廃した。
さらに“夫に先立たれた妻は火葬の際に、火中に身を投じて殉死する事が美徳とされている”などの非人道的な風習なども、非“文明”的であるとして禁止された。
『だから植民地支配にも良い面はあるんだよ〜』というのは植民地支配肯定派ローランド人達の言い分である…。

…まあ、そんな話は置いといて…

ヘインズマンはアルフレッドの肩にポンッと手を置いて言った。
「それじゃあ、行くとしようか」
「…は?行くって、一体どこへです?」
「…お前さん、本当に海軍一家の一員かね?船が港に寄って船乗りが行く所と言ったら二つしか無いじゃろう…酒場と娼館じゃ」
ヘインズマンは声を潜めてアルフレッドの耳元で囁いた。
「…だいたいお前さん、まだ“人間の女”とはヤっとらんじゃろう…?」
「そ…それは……はい…」
「ならば尚のこと行こうじゃないか!ライディアの女はワシも初めてじゃから楽しみじゃ…ハハハハハ!」
何だかヘインズマンはこの航海で性格が変わったようだ…とアルフレッドは思う。
以前は堅物、偏屈、気難しい人物だったが、旅を続ける内に角が取れて丸くなった。
海が彼の傷付いた心を癒やしたのかも知れない。
いずれにせよ良い傾向だと思う。

そしてアルフレッドも、ここライディアの地で、男として一回り成長する事となるのであった…。

ヘインズマンとアルフレッドは酒場で適当に飲んだ後、ほろ酔いで娼館街にやって来た。
「あ〜ら、可愛い海軍将校さんねぇ〜♪」
「お連れのオジ様も渋くて素敵だわぁ〜♪」
「私達んトコで遊んでってよぉ〜♪」
たちまち客待ちの娼婦達が寄って来て二人を取り囲む。
人種は現地人、白人、混血…多種多様だ。
これには二人とも思わず頬が緩む。
まるで自分が大した存在にでもなったかのようで非常に良い気分だ。
…実は娼婦達、単に二人の身なりが良かったから(娼館街の客の多くは下っ端の船乗りや水兵である)金払いが良さそうだと踏んで寄って来たに過ぎないのだが、それは知らぬが華…。
そしてアルフレッドは気付いてしまった。
(…ゲッ!婆さんじゃないか!?)
自分達を取り巻いている女達…てっきり若い女だと思っていたら、よくよく見たら化粧を滅茶苦茶に分厚く塗りたくった中年〜初老の女ではないか。
薄暗いガス灯と適度に入った酒のせいで判らなかったのだ。
彼はゾッとして、逃げようとヘインズマンを促す。
「きょ…教授…行きましょう…」
ところが…
「ワハハハハ!よぉ〜し!全員まとめて相手してやるかぁ〜!なぁ〜んてな!ハハハハハ!」
(ダ…ダメだ!!気付いてない!!)
…一瞬の逡巡の後、彼は決断した。
「ア…アイタタタタ!きゅ…急にお腹がぁ…!…という訳で教授!すいませんが僕はこれで失礼させていただきます!」
「あぁ〜ん?何じゃ〜?つれないヤツじゃのう〜!」
(さよなら教授!良い夢を…!)
アルフレッドはヘインズマンを見捨てて一人で逃げた。
…まあ本人が幸せなら、それも良いのではないだろうか…。

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