兵隊制度 7
「嫌だーっ!やめろーっ!?離せーっ!!」
「ええい、いいかげんにしろっ!?」
ルクスは牢屋の鉄格子にしがみつきながら、必死にあがく。
たとえみっともなかろうが、何であろうが、死ぬよりはマシだ。
それに彼は国家反逆罪どころか無実の罪でやってきた人間だ。
何も悪いことをしていないのに、モルモットにされて死ぬなどたまったものではないだろう。
だが戦時中、聞き分けのない囚人に兵士たちがあきらめるはずがない。
パァンッ!
「いつまでも悪あがきしてるんじゃないっ!
この場で銃殺刑にされて死にたいかっ!?」
「・・・〜〜〜っ!」
銃で脅されては・・・いや、この場で死ぬか数時間後に死ぬかを選べと来てはもうどうしようもない。
ルクスは泣く泣く抵抗をあきらめ、モルモットとして死ぬ道を選んだ。
彼が連れて行かれたのは手術室らしき大きな部屋。
そこには手術着を着た3人の軍医たちが待ちかねていた。
「ちょっとー。連れてくるの遅かったじゃない?
何をぐずぐずしていたの!?」
「は、はいっ!申し訳ありませんっ!
その、この男が死にたくないと牢屋で駄々をこねましてっ!」
最初に口を開いたのはルクスから見て右側の軍医。
甲高い声と手術着を着ても隠し切れない核弾頭のような大きな乳房から、それが女性であることはすぐにわかった。
女軍医の苦言に、連れてきた兵士は顔色を変えて言い訳する。
囚人に対しては情け容赦のない恐ろしい兵士が、軍医の前ではまるで主人に叱られる飼い犬のような有り様だ。
どうやらこの3人、思った以上に権力のある人間のようだ。
「まったく・・・私たちはアンタたちと違ってやることがいろいろあんのよ!?
もっと効率よく、テキパキ動きなさいよ、この役立たずっ!」
「まあ、そうカッカするな。
熱くなったところで何も問題は解決しないぞ?」
兵士に文句を垂れる女軍医に、真ん中の軍医がたしなめた。
不健康なぐらいにやせ細ったその人物は、声からして若い男のようだった。
「そこの彼らがあんまり使えないようなら、囚人の代わりに実験台にすればいい。
今は戦時中だ。少しくらい兵士が行方不明になっても何の問題もない。そうだろう?」
男の軍医はそう言って兵士たちに同意を求めるが、彼らは顔を真っ青にして首を横に振るばかり。
口調こそ穏やかで優しいが、言ってることは冷酷・冷徹・冷血だ。
きっとこの男には犯罪者のルクスも、彼を連れてきた兵士たちも同じ実験台にしか見えていないのだろう。
男の言葉を受け、最後の1人・・・3人の中で最も小柄で年齢のいった軍医がおかしそうに不愉快な笑い声をあげる。
「ヒャッ!ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ・・・!
まあそいつらをいじめるのもその辺にしといてやれい。
実験台になる囚人たちの代えはいくらでも利くが、わしらの身の回りの世話をやってくれる兵士はそうおらんのだぞ?
食事の支度なんてくだらないことのために研究の時間を削られたくはあるまい?」
その言葉に残りの2人が言葉に詰まる。
どうやらこの3人、根っからの研究者気質らしい。
研究以外になるとまともに生活さえできなくなるタイプと見た。
とにかくこうして話が一段落したところで、本日のモルモットであるルクスの手術の準備が始まった。
兵士たちが彼を手術台に固定している間に、軍医たちはカルテを手に最終ミーティングを開始する。
「じゃあ始めようかい。
今日の実験はエネルギー体であるファトン鉱石を用いた人体強化実験じゃ。
さて、今日のモルモット君はいったいどのくらいもってくれるかの・・・?」
不気味に笑う老軍医たちを前に、麻酔で意識が薄れゆくルクスは理解した。
自分は今日、ここでこの学者たちのおもちゃにされて死ぬ、と。
そしてその予測は当たっていた。
「ぐッ、ぐがッ!?あぎッ!ぎ、ぎぃやあああッ!?」
「ほーほー。ファトン鉱石を体内に投与するとこうなるのか・・・。
なかなか、おもしろいのぅ」
「ご老体。やはりそのままの状態では肉体が持ちそうにありません。
私の開発した強化薬で肉体強度を底上げしてみましょう」
「五体満足だから肉体にかかる負荷も大きいんじゃないかしら。
手足を切り取れば負荷を軽減できるかも。
手足くらいなら義手や義足でどうとでもなるわ」
ベッドの上でルクスは体の中から焼かれ、爆発してしまいそうな苦しみにのたうちまわっていた。
拘束具で固定されていなければ、とっくの昔にベッドの上から転げ落ちていただろう。
彼をここに連れてきた兵士たちはすでに退室している。
囚人には傲岸不遜な態度をとっていた彼らも、ルクスをおもちゃにして遊ぶ軍医たちに関わりたくなかったのだろう。