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勇者の子孫
官能リレー小説 - 同性愛♂

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勇者の子孫 10

「案内しやしょう、あっしらの砦に」
舗装されていない獣道を登ったり下ったりしていると、急に開けた渓谷に出た。そこは金色の麦畑が揺れ、風車がカタカタと羽を鳴らし、リンゴの甘く爽やかな香りで満ちていた。
「なんだか絵本で読んだ桃源郷みたいです!」
「あっしら盗賊の最後の城でさ。ここで暮らしながら待っていやした。オージェ様、あんたが来るのをね」
 数人の男達が歌いながら熊手のような農具を麦の山に突き刺し、宙へ放り投げている。舞い上がった麦は風に吹かれて流されたり、そのまま落ちてくるものもあった。
「彼らは何をしているんです?」
先頭を歩いていたヴァルトが答える。
「麦の風選ですぜ。ああやって風に晒すと、実の詰まった良質な麦と空っぽな麦とで選別できやす」
「ふーん、便利じゃねーか。オージェ、お前も後でやってみたらどうだ」
感心するヘニングを横目に、オージェは思った。もし自分が麦だとしたら、きっと風に吹かれて消えてしまうに違いない。
「……僕には勇者の子孫という肩書き以外なにもない。空っぽだ」
ヴァルトとヘニングは顔を見合わせた。

二人はなにも言い返せなかった。状況や受け止め方は違うとはいえ自らも同様に空っぽだからだ。

更に歩いていくとヴァルトの手下らしき男達が作業を止めて集まってきた。
どの男達もヴァルトと同じ格好をしているが猪マスクの色合いだけは違っていた。ヴァルトと比べたら迫力に欠けているコスチュームだ。
ヴァルトは集まってきた手下に何やらヒソヒソと話し始めた。
そのとたんに手下達の顔色が変わり…といってもマスクをしているので見えないはずなのだが、ヘニングには彼等の顔色が様々に変わっていったのがなんとなくわかった。

ヘニングは戻ってきたヴァルトに言う。
「皆うろたえてるじゃないか…、こちらのことは伏せておいた方が良かったのではないか?」
「旦那、伏せていたらヤバイことになってやしたぜ」

ヴァルトが顎でオージェを指しながら、にんまりと黄色い歯を見せた。オージェの首には立派なエメラルドのネックレスがある。闇市場に売れば金貨数千枚はくだらない。わざわざ魔王を倒しに行くより、オージェを殺してネックレスを奪った方が安上がりというわけだ。

「勇者の子孫という肩書きは命を狙われる的であり、同時に不逞な輩から命を守る盾にもなる、か……おもしれぇ、気に入ったぜ。ところでここは衛生環境大丈夫か? あんまり汚いとオージェに悪いぞ」

「ところでここにシラミとか居るのか?そちらは痒そうに見えないけど」
「虫は麦の大敵だから衛生環境には気を付けていやすぜ。変な虫が沸くようなことはないはず…」
そう言いかけたヴァルトも痒くなってきたらしい。周りの男達も全身をモゾモゾさせ始めた。
「なんだか様子が変だな。皆でその温泉とやらに行こう」
ヘニングは周りの男達にも温泉を勧めた。

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