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勇者の子孫
官能リレー小説 - 同性愛♂

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勇者の子孫 9

「ああ、貴方が……勇者の子孫、オージェ様!」
獣の皮をかぶった盗賊は、槍を地面に投げ捨てるとオージェに近づき、ひれ伏す。
「なんだ、こいつは?知り合いか?」
呆気に取られ、興が削がれたヘニングはオージェに尋ねる。
「多分……父が言っていた知り合い、かと」
「こいつが?正気とは思えんぞ」
ヘニングはひれ伏したままの盗賊を眺める。
獣の皮をかぶって平伏しているせいで、人とも獣ともよくわからないものになってしまっているが……
「なぁ、お前は何なんだ?」
「へへへ。あっしは盗賊の子孫、ヴァルトでさぁ!オージェ様、お父上は……シェリアル様は?」
面を上げ、問いかけたヴァルトに、オージェは少し悲しそうな顔を向けた。
その表情に気がついたヴァルトも、寂しげにため息をつく。顔は毛皮の奥に隠れ見えないが──ぽたぽたと雫が数滴地面を濡らした。
「ああ、やはり……昨日、いつもなら来るはずの便りが来なくて、嫌な予感はしていやしたが……」
「いや、ちょっと待て。なんでオージェのことを知っている?そして盗賊の子孫ってなんだ。聞いたこともないぞ。盗賊の子孫は普通に盗賊じゃないのか?」
話が掴めないヘニングはヴァルトに尋ねる。
「オージェ様、こいつは部外者のようですが、話してもよろしいので?」
「ああ、えっと、お願いします。僕もまだ、父から何も聞かされていなくて」
オージェはヴァルトを促すと、彼は頷き、話し始めた。
「勇者の子孫は、当然ご存じで?」
 ヘニングは「当たり前だ」と即答する。
「へぇ。世の中そればっかでさぁ。右を見ても左を見ても、自称勇者の子孫ばかり……。しかしですね、本当の子孫ってのは、直系の一人しかいないんでさぁ」
 ヘニングとオージェは同時に首を傾げた。
「でも、みんな自分が勇者の子孫だと信じて疑ってないよ?」
 オージェの言葉に、ヴァルトはケラケラ笑う。
「血統はそうかもしれませんな。ですが、直系の継承者は一人だけなんですぜ」
 ヘニングは難しい表情をしていた。
「話が見えないな……」
「簡単な話でさぁ。過去の勇者の仲間達……即ち、勇者、僧侶、戦士、魔法使い、盗賊、そして、賢者。それらの力を受け継いだ直系の子孫は、一人ずつしかいないんでさぁ。その他自称子孫ってのは、全て“擬き”、“なりそこない”なんですぜ」
「……ってことは、お前は盗賊の子孫の直系ってことか?」
 ヘニングの問いに、ヴァルトは強く頷くのだった。
「で、でも、なんで勇者の子孫を名乗る人があんなに多いの?」
「勇者の方が、カッコいいからでしょうな」
(んなアホな……)
 ヘニングは頭を抱えた。

それにしてもヴァルトらは随分と落ちぶれているように見える。
勇者の子孫は詐欺師紛いの奴やならず者みたいなのばかりだったが、彼等はそれ以上だ。
装備はボロボロを通り越してもはや無いに等しい。顔を覆う猪マスクに革を切って作った半纏、下半身はというと白い褌のみだった。
「なあ、その格好は……趣味か?」
へニングはヴァルトに尋ねる。周りに人がいないとはいえ、話すのが少し憚られるような格好だ。
──それに彼は、勇者一行の子孫と言っていた。その言葉をそのまま受け取るのなら……多分こいつは、そのままついてくる。
「狩りの装束でさぁ。この格好で街をうろついたりはしねえから、安心してくだせぇ。さて、荷物をまとめてくるとしやすか。あ、よかったら今日はうちに泊まっていってくだせぇ。手下達も喜ぶと思いますから。」
やはり、彼はどうも旅に同行するつもりのようだ。勇者の子孫が本物なのか確かめようとしただけなのに、さっそく厄介なやつが一人増えた。
へニングはため息をついた。どれもこれも、優柔不断な自分の性格のせいだと思うと嫌になる。

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