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勇者の子孫
官能リレー小説 - 同性愛♂

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勇者の子孫 8

「ありがとうございました、へニングさん。僕はもう行かないと。お金、これで足りますか?」
少年が腰に下げた袋から出したのは……金貨だった。
安い料理屋に不釣り合いなその輝きに、へニングは我に返る。
精神はともかく──世間知らずのおぼっちゃますぎる。
どれだけ高潔な志があろうと、このままでは騙されて男娼がいいところだろう。
「俺も勇者の子孫だ。乗りかかった船だし、お供するよ。」
確かめねばならない。彼が本物なのか──そして、それがわかるまでは、彼を守らなくては。
──だが……
へニングの胸に不安がよぎる。
──たとえこの子が本物だったとして、果たして俺は剣を向けられるのか?

(……何を考えているんだ、俺は。やるんだろ、絶対に……)
ヘニングは自らの疑念を一蹴させる。
彼の心の中に強い信念が甦る。それはぶれることのない強い光でもあり、どこまでも深い闇でもあった。
かつて彼が自らに課した使命。
全てを賭け、必ずやり遂げると決意したあの日。
ヘニングは、それを思い出した。
「……ヘニングさん?」
オージェはきょとんとしながらヘニングを呼ぶ。
「……何でもない。まずは何をしようかと考えていただけだ。プランはあるのか?」
「そうですね……」
オージェはしばし思案する。
「この街から少し離れたところに、父の知り合いがいるそうなので、まずはそこへ行こうかと思います。父も、そうするつもりだったようなので……」
「そうか。そいつは、味方か?」
「はい。僕自身面識はありませんが、おそらくは……」
「……」
オージェの父の味方であれば、後々敵に回る可能性もある。
そう考えたヘニングは岐路に立っていた。
オージェの言うとおり会いに行くか、はたまた無視して先に進むか……。
そして考え抜いた先に、ヘニングは決断をした。

翌朝、ヘニングとオージェは金色の草原を全力疾走していた。行き先はオージェの言っていた、知り合いが住むという渓谷の村。この村は様々な勢力がひしめき合う衢地であり、魔王の情報を得るにはうってつけの場所なのだ。
「だらしねぇな、もうバテたのか?」
「ごめんなさい、ヘニングさん」
それもそうだろう。ついさっきまで籠の中にいた小鳥を、大空へと解き放つようなものだ。どこへでもいける。しかし身体が追いつかない。自然界で生き残るには彼はあまりにも繊細で、弱すぎた。
「バカ、そのために俺がいるんだろ。もっと俺を使えよ」
ヘニングはオージェを背中におぶさり歩き出した。ヘニングの広い背中。ごつごつと骨ばっているが、不器用な暖かさというか優しさを感じる。
「まるで……お父さんみたいだな」
「父さんもおんぶしてくれたのか?」
オージェが照れ臭そうに笑う。
「よく馬に乗せてもらいました。草原を走って……砂漠を抜けて……辛いことも厳しいこともたくさんあったけど、お父さんは僕に世界の端っこを見せてくれた」
「お前は本当に、父さんのことが好きだったんだな」
「ええ、父は──」
「待て」
思い出の父を語ろうと語ろうとしたオージェを、ヘニングは遮る。視界の端、背の高い草がガサガサと音を立てたのを、彼は見逃さなかった。
「そこだっ!」
オージェを背からおろしたヘニングは前方に転回し、地面の石を拾って投げつける。
ギィン、と金属音とともに石は弾かれ、草むらから飛び出したのは、四足の猪──いや。
「人だな。山賊か?」
猪の毛皮を頭からかぶり、足には獣革のわらじ。飛び出してきたそれは鋭い穂先の槍を構え、ヘニングに突進した。
「ケッケッケ、テメーのケツの穴に槍をしこたまブッ込んで、溢れ出る血を味わってくれるぜ! ヤマトタケルが九州遠征で熊襲兄弟を殺した時のようになァ〜!」
 槍の最大の脅威は突きにあらず。刺突は予備動作や突進する方向が分かるので、逆に対処しやすい部類に入る。
「どっせい!」
ヘニングは槍の穂を掴むと、山賊の男を宙に持ち上げた。剛力無双、ここに顕現せり。背中を強かに打ち付けた山賊は、激しく咳き込みながらも起き上がった。
「む、まだ立てるか……! オージェ、お前は下がっていろ!」
「オージェ……? 旦那、今その坊やのことをオージェと呼びなすったんかい!?」
山賊の男がいきなりすがるように迫ってきた。彼の瞳には敵意や殺気はなく、旧知の友に会ったかのような安堵の表情が現れていた。
「おい山賊、あんた何モンだ?」

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