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勇者の子孫
官能リレー小説 - 同性愛♂

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勇者の子孫 7

 マントのフードを下ろした少年の顔は、薄汚れてはいたものの、すっきりとした卵型の輪郭に青い瞳、鼻筋の通った鼻梁、そして半開きになった唇はうっすらとピンク色に濡れている。その上、背中まで届く長い金髪を一本に編み込んで垂らしているから、華奢な体格も相まって、あの男でなくとも少女と見間違えるのは無理もない。
 上目遣いに見返してくる少年の、吸い込まれるような青い瞳に覗き込まれて、ヘニングは思わずごくりと喉を鳴らした。
「あの、あなたは……」
「あ、ああ、いや」
 少年の視線に狼狽える自分に、ヘニングは思わず腹が立った。それと気づかれぬよう一度咳き込むふりをしてから、ヘニングはわざと重々しい声で返事した。
「君の父親から依頼されたんだ。君のことを頼む、と。それで探しに来た」
 我ながら酷い口から出まかせだ。だがヘニングにはその場を切り抜けるのに、それ以上の口上を思いつくことは出来なかった。
「父に? あの、父はどこに!」
 ヘニングの適当な嘘を、少年はいとも容易く信じ込んでしまった。おそらく初めて訪れた場所で、唯一の肉親と離れ離れのままの心細さが、初見の男の言うことをあっさりと信じさせてしまったのだろう。
 そうでなくとも、先ほどの男に誘われて簡単についていってしまうほどだ。もしかすると元々警戒心が乏しいのかもしれない。
「ああ、君の父親はな……」
 ヘニングが言い淀んだのは、彼に父親の死を告げるのが躊躇われてからではない。そんなことはすぐにわかることであり、むしろさっさと知らせた方が彼のためでもある、とすら思っていた。
 この場でそのことをはっきりと告げようとしなかったのは、単にここが安宿の表であり、往来をろくでもない面相の男女が行き交うような、物騒な場所だからであった。
「ここではなんだ。場所を移して話そう」
 そう言ってヘニングが目で促すと、少年は疑いもせず、彼の後を無言でついてくる。
 やれやれ、さっきの男について酷い目にあいそうだったというのに、それに懲りずに俺についてくるとは。こいつはよほどお目出たい育ちの坊ちゃんかな。
 本当にこの少年を助け出してよかったものか、ヘニングは早くも自問自答していた。
 
 ヘニングが選んだ場所は、街外れにある小さな飲食店だった。
 飯時が過ぎていたこともあり、店内はがらりとしていた。その隅にある小汚い席に座るヘニングと少年。少年は店内を興味津々といった様子で見渡していた。
「……気になるのか?」
「え?」
「いや、さっきからやたらとキョロキョロとしているが……」
 ヘニングの言葉に、少年は顔を赤くさせる。
「こ、こういう店に来るのは、初めてだったのでつい……」
(大衆食堂が初めて? どれだけお坊ちゃんなんだ……)
 どうやら自分とは住んでいた世界が違うようだ。ヘニングの中に微かな不快感が沸き起こる。
「……お前、名前は?」
 ぶっきらぼうな問いかけに、少年は微笑みながら答える。
「僕は、オージェです。あなたのお名前も、教えていただけますか?」
「……ヘニングだ」
「分かりました。よろしくお願いします、ヘニングさん。僕の父とは知り合いなのですか? 父は昔から僕には――」
「――お前の父親は、死んだ」
 ヘニングは、何の躊躇もなく言い放つ。
「……え?」
「お前の父親は死んだんだ、オージェ」
「……」
 ヘニングの言葉に、オージェの時間は止まった。
永遠にも感じられる沈黙。時間にすれば数秒だったかもしれないが──破ったのはオージェだった。
「わかりました。父が死んだなら……その志は僕が受け継ぐ。勇者の子孫として──魔王を、討つ」
先ほどの野に咲く小さな花のような儚さとはうって変わり、覚悟を決めた歴戦の勇士のような強い光が目に宿る。
その変化に、へニングは息を飲む。
──なんだ、この子は?
明らかに他の「勇者の子孫」とは違う、高潔さすら感じさせる出で立ち。まさか、彼は──

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