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牙の勾玉
官能リレー小説 - 時代物

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牙の勾玉 2

 

市太郎にとって少し新鮮だったのは、あの勾玉が値打ち物ではなさそう、ということだった。
 勾玉は、市太郎が5歳程の時に母親から貰ったもので、もう8年程経つが、あれがどういうものかは知らない。ただ、「決して無くさないように、片時も身から離さないように」とだけ言われていたもので、市太郎も母の言うことだだからと、深く考えず今日まで身につけてきた。文銭程の大きさの勾玉で、傷も無数につき、その跡は赤茶に変色している。白い勾玉で、それは真珠のような輝きにも見えたし、骨のような落ち着きを持っているようにも見えた。
 市太郎自身もそれを値打ちのある物だとは思っていなかったわけだが、大切に持たせるぐらいなのだから、何か云われのある品物だったのだろうかと、市太郎は勾玉を奪われてようやく、初めて勾玉のことを知りたくなっていた。


…そうこうしている内に家に着いてしまった。母親には勾玉を奪われてしまったことを打ち明けなければならないだろう。市太郎は懐手をやめ、袖に腕を通し直し、何となく背筋を伸ばした。
 そうして玄関の扉を丁寧に開け、丁寧に閉め、草履だっていつもより丁寧に揃えた。母は、今頃は土間に居るだろうか。

はぁ〜あ ちんぽちんぽちんぽっぽーのヨイヨイヨイっとくらぁ 
その奇妙な歌声は浪人達に届いていた。
勾玉から響いているのだ。
「なんだこの下品な歌は…」
「誰だ?」
まさか勾玉から発せられているとは思ってもいない彼等は歌声の主を探した。誘い込まれているとも知らずに。
アニキとデンは知らず知らずのうちに少しずつ市太郎の家へと近づいていく。所有者と勾玉が引き寄せられているからだ。
本来は離してはいけないものなのだ、それを二人は無理矢理に奪ったので両方とも勾玉の力をまともに受けてしまった。
勾玉をつけたアニキを先頭にしてフラフラと歩く姿はもはや誰にも見えなくなっていた。
特に勾玉を首にかけたアニキは影響が大きかった。彼のボロ切れのような着物は蒸発してしまっていた。
その後ろを歩くデンも同様に裸になった。
勾玉の妖力に包まれていなければ騒ぎになっていただろう。何も起こらないままに町を抜け、そして市太郎の家のあるひどく寂れた場所へと入り込んでいく。

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