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インキュバス〜伊賀淫法帖〜
官能リレー小説 - 時代物

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インキュバス〜伊賀淫法帖〜 1

甲賀の大地は今、人々の恐怖と血の匂いで満たされていた。
京都の将軍が率いる室町幕府の軍勢が、反逆者である六角高頼を討ち取らんと、甲賀の地に攻め入って来たのだ。
これに対して六角高頼と彼の配下である甲賀忍者たちは、自らが住まう地を守るため必死に戦った。
だが、幕府軍の戦力は余りにも強大で、反抗も虚しく多くの村や砦は、一つ、また一つと制圧されていった。
もはや甲賀は幕府の手によって滅ぼされてしまうのかと、誰もが諦めかけていた時であった。
「皆さん!諦めてはいけません!」
地獄の如き戦場に一人のくの一が姿を現した。
彼女が手に持った刀を振りながら、一陣の風のように駆け抜けると、雑兵たちの首が刎ねられ、華美な鎧を着た幕府の侍たちの首が宙に舞う。
「おお!朧(おぼろ)さまだ!朧さまが加勢に来て下さったぞ!」
「朧さまが来て下されば百人力よ!」
戦意を喪失していた甲賀の忍びたちは、少女の姿を見て再び戦意を取り戻す。
結果、その日の戦闘は、たった一人のくの一の出現によって幕府の敗北に終ったのだった。


「ええい!高頼めの首はまだか!何故このような小さな国が落せぬのじゃ!!」
多くの守護大名たちに声を掛け、数万の軍勢を投入したにも関わらず、当初の予想とは裏腹に戦局は膠着状態に陥っていた。
それどころか、一度は陥落させたはずの砦が、一つ、また一つと奪い返されたという報告が、次々に幕府軍を率いる将軍の下へと届き、その度に将軍の苛立ちは増していく。
「は、申し訳ございません・・・何分この地の民は化外(けがい)の民ゆえ将軍家のご威光も知らぬ不届き者が多く・・・」
「言い訳はよい!!」
将軍は手元に置いてある杯を手に取ると、八つ当たり気味に投げつける。
「はは!申し訳ございません!」
将軍の叱責に配下の武将は慌てて頭を下げる。
元々武家の棟梁としては、神経薄弱なたちだったが、長引く対陣と膠着した戦局が、将軍の精神に深い影を落しているようだ。
「・・・上様宜しいでしょうか?」
武将たちが将軍の八つ当たりされては堪らぬと沈黙する中、末席から声が上がる。
「何じゃ?」
「もし宜しければ、此度の戦。しばし私めにお任せいただけませんでしょうか?」
「お前に?何か考えがあるのか?」
「はい」
将軍の問いに男は笑みを浮かべて頷く。
それは自身の勝利を確信しているような自信に満ちた笑みだった。
男の自信に満ちた表情に、将軍は短く思案した後に「いいだろう」と言葉を返す。
「お前に任せよう。ただし、軍は貸せぬぞ。やるなら自分の隊だけでやるがよい」
「はい。仰せのままに」
深々と頭を下げながら、男は快心の笑みを浮かべたのだった。


「半蔵様・・・」
夜。甲賀の砦のほど近くの森で、朧は月を仰ぎながら一人物思いに耽っていた。
(半蔵様も何処かで月を見上げながら、私を思っていてくれているかしら・・・?)
甲賀忍者の頭首の娘として生まれた朧には、幼い頃から親に決められた許婚がいた。
かの人の名は服部半蔵(はっとり はんぞう)伊賀御三家の一つ、服部家の御曹司であり、いずれは伊賀の忍者たちを統べるべき人である。
次代の一族を担う者として、両家の頭首は二人の結婚を望んだのだろう。
もっとも、幼い朧には、両家の思惑など理解できるはずもなく。ただ、自分はあの人の妻に成るのだと、幼い心でただ純粋に半蔵を慕っていた。
だが、ある日半蔵は誰にも告げることなく伊賀の里を捨て何処かへ旅立った。
次代の頭首が抜け忍となり姿を消したという大醜聞は、伊賀一族に泥を塗る事であり、伊賀はその面子にかけて半蔵を抹殺せんと追っ手を差し向けた。
しかし、伊賀の放った追い忍たちは、半蔵の行方はおろか、足取りさえ掴めなかったという。
当然二人の婚約は無かったことにされ、両親にそれを告げられた朧は、布団の中で一日中泣き続けた。
だが、朧にとってそれ以上に悲しかったのは、里を抜ける半蔵が、婚約者であるはずの自分を連れて行ってくれなかった事だ。
(半蔵様にとって、私は親に決められただけの望まぬ婚約者に過ぎなかったのかしら・・・)
そう思うたびに朧の心は刃で切り裂かれたように痛むのだった。

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