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爆乳☆陰陽伝
官能リレー小説 - 時代物

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爆乳☆陰陽伝 43

それでも拳を叩き込み続ける晴士。
たちまち彼の拳はボロボロとなる。
このままでは消耗していくだけだ。
だが彼の頭には既に理性など無い。
やられたら即やり返す…それだけだ。
非常に単純な…それは獣の理論である。
人の体に獣の頭…それが今の晴士だった。
一旦退いて様子を伺う…等という頭も無い。

…その時であった!

辺りの空気が、ふっと変わったのは…。
半陰陽(ふたなり)の淫妖は気配の方へと顔を向ける。
高烏帽子に白い狩衣に身を包んだ陰陽師と思しき一人の青年がそこにいた。
それは……賀茂光征であった。
先ほど葛葉によって完膚無きまでに焼き尽くされたはずの彼が何故…?
だが、それに対して疑問を抱くような者は既にこの場には居なかった。
「哀れなものよ…」
光征は我が身を犠牲にしてまで妖への攻めを続ける健気な晴士を見て溜め息混じりにそう言うと、つかつかと両者に向かって歩み寄って行く…。
彼はすっと右手を掲げ、その掌を晴士に向けると…
「ふん…っ!!」
…と力を込めた。
次の瞬間、目に見えぬ“気”の塊が晴士を吹っ飛ばす。
「ぐぁ…っ!!?」
彼は通りの反対側まで飛ばされ、土壁に全身を叩き付けられて気を失った。
「……」
一方、光征の姿を認めた淫妖は彼をも取り込もうと、美しい貌を歪ませ、ぐわっと口を開けて襲い掛かる。
光征は慌てる素振りも見せず、懐から一枚の札を取り出した。
そして…
「…天地玄妙神辺変通力離…急々如律令!」
そう唱えると淫妖に向けて札を放つ。
「…ぐぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!!!?」
次の瞬間、凄まじい悲鳴を上げて淫妖の全身が青白い炎に包まれ燃え上がった。
光征は右手の袖を捲ると、何とその炎の中に腕を突っ込む。
不思議な事に炎は彼の衣には燃え移らない。
そして…
「ふんぬ…っ!!」
一気に引き抜いた。
その手の先に何かを掴んでいる。
それは一匹の狐だった。
一方、拳の中にも何かを握っている。
小さな沢蟹だ。
狐も蟹も意識が無いようで、ぐったりして動かない。
そして晴士も…。
それらを見下ろしていた光征は、やがて己の背後に向かって呼び掛けた。
「サキ…居るか?」
「はぁい、ご主人様ぁ…♪」
すると闇の虚空から出現するように一人の美しい娘が現れた。
狐の耳と尾を持っている。
コンと同じ狐の化身らしい。
ただ違いを挙げるとすれば、彼女は尻尾が二又に裂けているという点だ。
容姿もコンより少し大人びているように見える。
緋色の水干という狩衣に似た服を着ているが、下は履いていないようで、白い健康的な太ももが闇に眩しい。
光征は気を失っている一人と二匹を指して言った。
「あれらを我が屋敷へ…」
「えぇ〜…人間は虫の息だし、狐と蟹はもう死んでますよぉ…?」
「…いや、まだ僅かながら命がある…然るべき手当てを施せば息を吹き返すだろう…」
「ご主人様ぁ、何故この者らをお助けなさるのですかぁ…?」
「理由など無い。強いて言うなら…」
光征は答えた。
「…面白そうではないか」


その頃、賀茂家の屋敷では(晴士が襲撃を受けた事など)何も知らない保利が縁側で佇んでいた。
「はぁ…」
月を見上げて溜め息を吐く彼女の姿は、物憂げな美少年そのものだ。
彼女の歎息の原因はその掌中にあった。
それは紙を切り抜いて作られた一枚の人形(ひとかた)で、半分ほど焼け焦げている。
それは陰陽師が“写し身の術”に使う物だった。
実は先ほど宮中で、葛葉に焼き殺された光征が立って居た場所に落ちていたのを見付け、そっと回収して懐に隠しておいたのだ。
(光征殿は死んではいなかったのだ…)
保利は思う。
(一体いつ入れ替わった?…いや、ひょっとするとあの場に居たのは初めから写し身だったのやも…)
だとしたら…写し身でありながら、あの葛葉姫と一時は互角に渡り合った光征の力は一体いかばかりのものなのだろうか。
そこまでの実力者である彼が、あの場であのような暴挙に出た理由は…本当にただの功名心だったのだろうか。
そんな事のために従姉妹である自分を殺そうとしたのか…。
…いや、少なくとも彼女の知る賀茂光征という人物は、そんな男ではなかった…はずだ。
「光征殿…」
保利は再び月を見上げて溜め息を吐いた。


晴士とその式神たちは賀茂光征の屋敷に運ばれた。
屋敷お抱えの薬師や陰陽師の弟子たちの手厚い看護のおかげで、ボロボロだった晴士は事なきを得た。
コンとカイも淫妖に丸呑みされはしたものの、傷自体は大した事はなかった。
しかし彼女たちはまったくもって運が良かった。
何しろ陰陽師はあやかしを封じ、あるいは殺す存在である。
それを治療するなんてまったくの専門外。
もし傷の程度が酷いものだったとしたら。
あるいは簡単な手当てでは治らないような傷を受けていたら。
おそらく彼女たちは命の危機にさらされていた事だろう。
そんな奇跡とも言うべきいくつもの偶然に助けられていたことなど露ほども知らず。
晴士はあてがわれた寝室で目を覚ました。

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