爆乳☆陰陽伝 4
すやすやと寝息を立てるキツネ娘を前に、晴士がただただ途方に暮れていると。
周囲がにわかに騒がしくなっていることに気が付いた。
どうやら陰陽寮の人間が、葛葉姫の存在に気づいたらしい。
このままいるのはまずい。直感的にそう思った晴士はその場を後にしようとして―――彼女からプレゼントされたキツネ娘を回収して、逃げ去った。
仇敵である葛葉姫の眷属を回収したのは、あらぬ疑いを賭けられるのを避け、先祖の名誉を守るため。
晴士は自分の本当の気持ちを建前で偽り、ひたすらに走り続けるのであった。
「ハーッ、ハーッ、ハーッ・・・!」
そうして町はずれの自宅に逃げ帰った晴士は、安らかな寝息を立てる葛葉姫の置き土産を前に、乱れた呼吸を整えていた。
全力疾走してきた晴士は体力回復中でそれどころではなかったが、先祖を食らった悪狐(あっこ)の土産はそれはそれは素晴らしかった。
整った顔立ち。シミ1つない肌。絹を思わせる、長くつややかな髪。
この時代の人間にはありえない、大きく張り出した胸。
何人でも子供が産めそうな安産型の臀部。
100人に聞けば全員が美人だと答える美しい女の子が、そこにいた。
ただ悔やむべきは彼女が人間でないということ。
そして彼女が先祖を甘い言葉でたぶらかし、その死体を食らった妖狐の眷属であるということ。
どのような理由があれ、この2つがあれば晴士としてはキツネ娘を滅ぼすに十分すぎる。
だが彼も男である。これだけの上玉を前にそう簡単に殺せるとは思えない。
彼は陰陽師(半人前)として彼女を封滅するのか?それとも欲望に屈して彼女を式神として引き入れるのか?
我々(読者)が見守る中、眠っていたキツネ娘がその目を覚ました。
「ふあぁ〜あ…良く寝たコン…」
「うわあぁっ!!?しゃ…喋ったぁ!!?」
のん気にアクビする狐娘に晴士は慌てて飛び退き、壁際まで後ずさった。
「…はあ?お前、何をそんなに驚いてるコン」
「う…うるさい!てゆうか何だよ、そのいかにもキツネですって主張したげな語尾は!?…僕は、これからお前を調伏する!」
「…調伏?お前が?…面白い、やってみるコン」
晴士は再び破魔札を取り出すと狐娘に向けて言った。
「…臨(リン)!兵(ビョウ)!闘(トウ)!者(シャ)!皆(カイ)!陳(チン)!列(レツ)!在(ザイ)!前(ゼン)!…君ハ調伏スベシ…陰陽ハ和合スベシ…君調伏!陰陽和合!急急如律令!」
「……」
「急急如律令!」
「……」
「急急如律令おぉぉ!!!」
「…ハァ…」
「うわっ!な…何だよ!?可哀想な物を見る目でこっちを見て溜め息を吐くなぁ〜!」
同情や呆れを通り越して憐憫すら感じさせるキツネ娘の態度に晴士は涙目になって抗議する。
とゆーか調伏はどーした調伏は。
「まったく何をやってるコン・・・。口ばっかりでまるでなってないコン。
そんなんじゃ、いつまでたっても調伏なんてできないコンよ?」
「ううう、うるさぁいっ!きょ、今日はたまたま調子が悪いだけだっ!普段だったらおまえなんか・・・!」
仮に絶好調のときでも妖狐なんて大物、倒せるはずなんてないのだが。
敵に憐みをかけられた恥ずかしさと悔しさから子供のような言い訳をする晴士。
もし第三者が今の彼を見たら誰も陰陽師だなんて思わないだろう。
本人もそれにわかっていたのだろう。札を落とすと床に手をついて、その場で泣き出してしまった。
まさかここまでヘタレとは知らなかったキツネ娘は、失敗したとばかりに片手で自らの顔を覆う。
だが反省したところで事態は何も変わらない。
彼女はすぐに気を取り直すと、嗚咽を漏らして泣く晴士の元に近づいた。
そして着物の襟をつかんで無理やり引っ張り立たせると。
何を思ったか、いきなり彼の唇に自らの唇を押し付けた。
「ふんぐっ!?むぐっ!?ん〜〜〜っ!?」
驚く晴士を無視し、キツネ娘は舌をねじ込み、その口内を思うままに蹂躙する。
どれくらいそうしていただろう?数分とも1時間とも思える時間の後、唇を離した彼女は、笑みを浮かべて呆ける晴士を挑発した。
「ほれ。どうしたコン、陰陽師?泣いていたせいで、おまえの口は汚らわしい妖怪に汚されてしまったコンよ?
早くどうにかしないとこのまま初穂を奪ってしまうコンよ?」
「あ・・・う・・・?で、でも僕、術に失敗して・・・」
「失敗したくらいでおまえはすべてをあきらめるコン?おまえは陰陽師だろコン?
術がダメなら、別の方法で調伏してしまえばいいコン」
「べ、別の方法・・・?」
「そうコン。暴力で抗ってもよし。私を手籠めにするもよし。
自分ができることをやってるみるコン」
「自分の・・・できること・・・」