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爆乳☆陰陽伝
官能リレー小説 - 時代物

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爆乳☆陰陽伝 12

羊水に浮かぶ赤ん坊のような体勢で宙を漂う無数の泡。
大カニはそれを2本のハサミで器用に集めて口へと運ぶ。
被害者たちにとって幸いだったのは、カニが彼らを丸呑みにしていたこと。
運が良ければまだ助けられる見込みがあるかもしれない。
だが事態はそれどころではない。何しろ試験場にいるのはカニの相手にならない兵士と未熟な陰陽師ばかりなのだから。
もちろん試験官である一人前の陰陽師たちも奮戦している。
しかし泡につかまった被害者たちやカニのまわりにいる連中が邪魔で、大がかりな術が使えず、思うように動けない。
彼我の力量もわからずに突っ込む無謀なもの、怯えてそこから逃げ出そうとするもの、仲間を守ろうと奮戦するもの。
試験会場はあっという間に混沌の坩堝と化した。
そこからは早かった。逃げ出した者以外全員が泡に飲まれてしまう。
事前にかけられていた術で判断能力がにぶっていたからだった。

晴士はというと早速試験におちて、帰りかけていた。ようやく会場が騒がしい事に気が付く。
そこに数人が駆け寄ってきた。仲間を見捨てて逃げ出した者達だ。
「蟹みたいな化け物が暴れている、逃げた方がいい」
「巨大なカニの化け物が、変な泡で仲間たちを捕まえて踊り食いしている」
「兵士や試験官の陰陽師が奮戦しているが、全滅するのは時間の問題だ」
などなど。さまざまな情報が晴士の耳に届いていく。
実戦経験の浅い受験者たちは身の程をわきまえ、あるいは恐怖に支配されて次々と試験会場から逃げ出していく。

そんな中、晴士の心に湧き上がったものは・・・歓喜であった。
安倍一族の落ちこぼれとして生を受け、運命にあらがおうと努力に努力を重ねた晴士。
途中葛葉というイレギュラーに出会い、狐娘という式神を手に入れたものの、肝心の試験はボロボロ。
自分でも落第間違いなしとわかるほどの内容だった。
一族の落ちこぼれとして、軽蔑と屈辱の日々を送るしかないのか・・・。
そう絶望しかけていたところに出てきた化け蟹騒動。晴士はチャンスだと思った。
もしこれで化け蟹を倒すことができれば・・・倒せなくても活躍できればボロボロの試験結果を覆せる。
死ぬ危険がないわけではない。
だがここで引いたところで、待っているのはあの屈辱の日々。
これからもずっとあんな生き地獄を味わうのに比べれば、今化け蟹と戦って死んだほうがはるかにマシだ。
「ご主人様?どうするコン?逃げるコンか?」

いつのまにか姿を現した狐娘が不安そうに聞いてくる。
騒ぎを聞きつけ、主人の元に駆け付けたのだろう。
昨夜生まれたばかりだと言うのに、大した忠誠心である。
心の中は未知の存在、その交戦への不安と恐怖でいっぱいになっているだろうに。
晴士はそんな彼女に愛しさを感じ、思わず抱きしめてしまった。

「こ、コンっ!?ご、ご主人様っ!?」
「―――行くぞ、コン。僕たちの力で、暴れている化け蟹を倒すんだ!」
「・・・っ!コンっ!!」

コン。今朝主人から与えられたばかりの名前を呼ばれた狐娘の顔から迷いが消える。
主人である晴士が自分の名前を呼んでくれた。自分の力を必要としてくれている。
彼女にはそれだけで十分だった。
そして2人は1人前の陰陽師として首級を上げるべく、戦場へと駆け出したのであった。

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