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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 96

 チャキッ。
 家竜が刀に手をかけると、すかさず銀次は後ずさった。
「おっと、こんな往来で斬り合いですかい? あっしは土産物をお持ちしただけですぜ!」
「こら、やめるんじゃ! 竜二郎!」
「そうです! 落ち着きなさいませ!」
「は、離せっ! こいつを締め上げて珊瑚の居所を吐かせてやる!!」
 斬りかかろうとする家竜を、あわてて藤兵衛と大二郎が必死に抑えつけた。
「おっとっと、そんなにしゃちほこばらなくてもあのお嬢さんの居場所ならお教えしまさぁ。今、名古屋で一番人気の夢乃屋一座の小屋においでなせぇ。きっと会えますぜ!」
 そう言うなり、銀次はくるりと踵を返すと人混みの中へと消えていった…。
「てめぇ、珊瑚に何かしやがったらタダじゃおかねぇぞ!!」
 家竜は人混みに向かって吠え立てる。
 まさか裏柳生が自分たちばかりでなく珊瑚にまで手を伸ばしていたとは!!
 家竜は自分の迂闊さにふつふつと怒りがこみ上げてきた。こうして自分を動揺させて隙を突こうという裏柳生の企みであることは明らかだ。
 たぎる怒りを必死に抑え、大きく深呼吸すると家竜はようやく平静を取り戻した。
「あやつ…。あの身のこなし、只者ではないわい。おそらくは裏柳生の生き残りであろう」
「あたいもそう思う。上様、きっとこれは何かの罠よ!!」
「…んなこたぁどうだっていいんだ。とにかく珊瑚を救い出す。それしかねぇだろ!!」
 そう言い放つと、家竜はすたすたと歩き出す。あえて敵の罠に飛び込む覚悟は決まっているのだ。
 その雰囲気には有無を言わせぬものがあった。
「お、おい竜二郎…!!」
 藤兵衛も楓も、皆黙ってついて行くしかなかった。

 芝居小屋は大須観音にほど近い繁華街にあった。
 そこも行ってみれば人・人・人。老若男女のごった返しである。その数は江戸よりも多い。人々のざわめきの向こうから「掏摸だぁ!」と叫び声がする。
 たくさんの昇りが立てられて呼び込みの声が遠くからでも聞こえるので、そこが一行の目指す夢乃屋一座とすぐにわかった。
 周囲の芝居小屋よりはるかに大きく、作りが瀟洒である。高さは二十丈(約21m)はあろうか?
 張り出した屋根の上には出演者の錦絵が飾られ、中央ではからくり仕掛の人形がくるくると動いていた。
 入口に組まれた櫓には四角い顔の男が立っており、甲高い声で盛大な啖呵をきっている。

「さぁさぁ寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! 夢乃屋一座の歌舞伎踊りだ!! 京・大阪でも大評判をとって地元・名古屋で凱旋公演だ!! 見目麗しくも色っペぇお姉ちゃん五人組、お馴染み『おもてなし武将隊』が刀や槍を振るって華麗に舞い踊るよ! まず筆頭は二天一流の宮本武姫! お次は燕返しの厳流・佐々木小姫! 新陰流の柳生十姫! 槍を取っては日の本一の宝蔵院舜姫! そして殿(しんがり)は忍びの達人・服部半姫だ!! 前座には博多の三味線歌姫・長山太夫! 異人に習った三味線立ち弾きと華麗な水芸で男どもの鼻の下を伸ばすぜ! 可愛い遊女と若衆も後ろで歌い踊るよ! おいそこのおいちゃん、こんなすげぇ見世物を観たら美女から立ち上る仙気とお色気で寿命が百日は延びるよ!! 一回観れば百日、二回観れば二百日、三回観たら一年は延びるってぇ寸法だ! どんどん延びて皆仙人、仏様になっちまうぜ!! そうすりゃ巷の衆の夢は現世(うつしよ)となり、現世は夢となる! さぁみんな、入った入ったぁ!!」

「こりゃまた派手な建物じゃな〜!!」
「こんな芝居小屋、江戸にもありませんよ!!」
「ねぇ上様、見て見て! 綺麗な錦絵が飾ってある!」
「…………」
 一行はその『小屋』と呼ぶにはあまりにも巨大な建物を見て驚嘆した。
(何だこの芝居小屋は? 家虎の野郎、好き勝手にやりやがって…。俺はこんな派手でバカでっかい小屋を許した覚えはねぇぞ!)
 他の四人が驚嘆する中、家竜は一人苦り切った顔で見上げていた。
「もし? お侍様、家田様とおっしゃるんじゃないかね?」
 人混みと共に小屋に入っていく一行は木戸銭口に立つ中年の女に呼び止められた。
「うん? 何だ。いかにも俺は家田竜二郎だが、一体それがどうしたって言うんだ?」
「そうかい、お殿様が招待したお友達だね? 話は聞いてるよ! さぁ入っとくれ、お代はいらないから! あんたらのために特上の席が空けてあるんだ!!」
 出てきた小間使いの女に一行が案内されたのは、二階の桟敷席であった。

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