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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 95

「ふ〜ん・・・中々栄えてるみたいだな」
波乱に満ちた旅を終え、目的地である名古屋の城下にやって来た家竜一行は、江戸にも劣らぬ城下の繁栄に目を丸くする。
「初代藩主である徳川義直公以来数百年。御三家筆頭尾張藩62万石の城下として名古屋は栄えてまいりました。名古屋は江戸〜京都を結ぶ東海道の丁度中間に在るという地の利も有り、その繁栄は西の京・大坂。東の江戸に次ぐ程ですじゃ」
若い頃から武者修行で全国各地を旅して周り、意外と博識な秋山藤兵衛(アキヤマ トウベエ)が、家竜にそう説明する。
「参勤交代の時には籠から見るだけだったからな・・・そう言えばこうして名古屋城下を歩くのは初めてだったな・・・」
(同じ御三家なのに、実家の和歌山城下よりだいぶ栄えていやがる・・・チッ!少しばかり悔しいぜ)
「油断なさらないで下さいね。ここは家虎公のお膝元。まぎれも無く敵地に他なりません・・・我らが城下に入った事は、もう既に気付かれているハズです」
元々尾張藩の剣術指南役の家に生まれた雅は、生まれ故郷の名古屋に入って以来。むしろ旅の途中よりもピリピリしていた。
否、それは雅だけではなく、家竜と藤兵衛以外の人間は大なり小なり同じだった。
「だからって、そう何時もピリピリしてちゃ、いざと言う時もたんだろうが・・・折角の旅なんだからお前らももっと気楽に楽しめや!」
そう言うや否や家竜は一行を置いてさっさと大通りの雑踏へと足を向ける。
「う、うえ・・・じゃ無かった竜さん!お待ち下さい!!」
他の仲間たちも慌てて家竜の後を追う。
「何時も思うのだが、あの方は度を越した大物なのだろうか?それともただのバカなのだろうか?」
「多分バカの方だと思いますよ」
この旅の間に随分気安くなった雅の軽口に応じながら、楓も家竜の後を追いかける。
(さて、予定通りなら、頭領の根回しがもう済んでるハズなんだけど・・・どう考えても家虎公は素直に白旗上げるタイプじゃないのよね・・・)
楓は内心そう呟きながら、自らの主君であり、そして想い人でもある男の身を案じるのだった。

 ここは大都市・名古屋の城下町・大須。
 様々な店や芝居小屋、見世物小屋が所狭しと軒を連ね、道端も大道芸人や見物客で一杯だ。
 その活況は江戸以上と言ってもよかった。家竜の出した倹約令で職を失った芸人や職人が各地から大量に流入しているのだ。
 どの店も派手なのぼり旗が立てられ、けたたましいまでの呼び込みである。
「…さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!」
「ひゃ〜! うるせぇな!!」
 家竜は耳に指を突っ込んで大げさなそぶりでふざけて見せたが、内心は決して面白くない。
 家虎が自分の出した倹約令を守っていないことが明らかだからだ。
(ちきしょう、家虎の野郎…!! どこまで俺に楯突きやがるんだ…?!)
 家竜の脳裏に家虎の高笑いがよぎった瞬間、不意に後ろから声をかける者がある。
「もし…。お侍様! 家田竜二郎様ではございませぬか?」
「うん? 誰だ、おめぇは?」
 家竜が振り向くと、小柄な男が立っている。背に荷物を背負った堅気の商人風のいでたちだ。
「あっしは銀次ってケチな野郎ですがね、ちょいとばかりお渡ししたい物があるんでさ」
 銀次は懐から紙包みを取り出すと家竜に手渡した。
「何だ、これは…?」
 包みを開いてみた家竜はその表情を一変させた。
 中にあったのは家竜がかつて博打で大勝ちした際に珊瑚に買ってやったべっ甲のかんざしであった。
 これは珊瑚のお気に入りで、いつも頭に差していたものだ。
「てめぇっ! 一体これを何処で…っ?!」

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