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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 93

「へっへっへっ…。お侍様、オラがおはつの父親の権六でごぜぇますだ」
 おはつが権六を連れて漁師小屋に戻ると家竜は上機嫌で出迎えた。
「おう、おめぇが権六か。俺は家田竜二郎。とある大名家の三男坊だが、幸い今度養子の口があってな。婿入りの前にちょいと物見遊山に出たんだが、大井川で流されちまったんだ。おめぇの娘にはずい分と世話になったな。おかげで命拾いしたぜ。心から礼を言わせてくれ」
「そ、それで…。礼というと、いかほど…いただけるんでごぜぇますか?!」
 もみ手をしながら喜色満面の権六が尋ねる。権六の小さな脳みそは大名家から支払われるであろう礼金のことで一杯だ。
「いや、その話なんだがな。懐の巾着袋に切り餅が入っていたはずなんだが…。川で流されちまったらしくて、今あいにく持ち合わせがねぇ」
 自分の懐から金子を抜き取ったことに対するさりげない嫌味だ。権六は一瞬ぎくりとしたが、顔は必死に取り繕った。
「俺の供の者が金谷宿の八幡屋という旅籠に泊まってるんだ。たっぷりと心づけを渡すから、悪いが旅籠まで取りに来てくれねぇか?」
 そう言われて飛び上がらんばかりに喜ぶ権六。
「へぇ! もちろん喜んでうかがいやす!」
「そうか。それとな…。済まねぇが、俺はこのおはつに手をつけちまった。うちの屋敷で下女として使いたいから連れて行ってもいいか? もちろん支度金は十分に出そう」
「へぇ! へぇ! こんな娘っ子、いっくらでも連れてってくだせぇ!!」
(しめた! オラの使い古しの穴ぼこをお侍様が引き取ってくれるだ!! こっちはもらった金で商売でも始めて綺麗な妾を囲うだ!!)
 権六の脳内ではバラ色の未来予想図が展開している。
 酒で多幸感が増しているので、あまりに願ったり叶ったりの状況に動悸が激しくなり、心の臓がばくばくする。喜びのあまり権六はだんだん身体が震えてきた。
「そうか、それなら話は早い。今からちょっと来てくれ」
「へっ?! い…今からで?」
 さすがの権六も目をパチクリさせている。
 そこへ不意に女の声が響いた。
「もし…。竜二郎様はおいでになりますか?」
 おはつが引き戸を開けると、そこには女中姿の楓と雅が立っていた。
 もちろん家竜から詳細な指図を受け、共にやってきたのだ。
「おお、楓と雅か。紹介しよう。この者は権六。村の漁師でな、俺の命の恩人だ」
 家竜は二人に目配せしながら、芝居っ気たっぷりに両手を広げてみせる。
「竜二郎様、お迎えに上がりました」
「近くに籠を待たせておりますゆえ。ささ、こちらへ」
「うむ。それでは権六、おはつと一緒にちょっと来てくれ」
「へ、へぇ…」
 家竜が立ち上がると、権六も狐につままれたような顔でフラフラとついて行く。

 そして五人は小屋を出て、既に日の暮れきったあぜ道を歩き出した。
 辺りは真っ暗、音といえばふくろうの声と虫の羽音くらいものだ。頼りの灯りは提灯一つ、当然のことながら寂しい道行きである。
 暫く歩いてもいっこうに行く手に籠が見えないので、権六はだんだんと不安になってきた。
「お侍様…。まだでごぜぇやすか?」
「うむ、まだだ」
「ほほほ、もう少しでございますわ」
 楓がお上品に微笑んでみせた。
「あら、あそこに灯りが見えますわ。あれでございましょう」
「えっ? どれどれ?!」
 雅の声に権六が目を凝らそうと少し前屈みになった瞬間だった。
 がしっ!!
 家竜が権六の首に太い腕を巻きつけ、組み付いた。それと同時に楓はおはつに取り出した布を被せて後ろに飛びのいた。
「権六…。俺からのお礼はこいつだ。銭勘定は地獄で好きなだけやりな…!!!」
「ぐはっ! うぐぐぐ…っ」
 いきなり首を極められて悶える権六。家竜は懐から細く鋭い竹串を取り出した。
 竹串は権六の後頭部と首の境目、いわゆる『盆の窪』に向かって刺し込まれてゆく。
 ブスス…ッ。
「?!?!?! …ぐ、ぐげげげ…っ!!」
 権六は身体を震わせながら、だんだんと静かになっていった。
 深く差し込まれた竹串が延髄にまで届いたのである。
 延髄とは脊髄の一部で脳神経に繋がっており、嚥下、呼吸、循環、消化などの生命維持に不可欠な機能を担う器官だ。これを損傷するとそれらの機能は停止する。
 つまり、その先に待っているのは『死』だ。
 武器を持たない最悪の状況でも敵を倒す方法として楓から教わった技だが、実際に家竜が試すのはこれが初めてだった。
 竹串は大半が盆の窪に沈み込んでいる。家竜は途中からぽきりと折って残りを完全に中まで押し込んだ。
「あが…。が…っ。かはっ!」
 ドクン。ドクン。ドク…ン。ツー………。
 権六の心の臓は完全に停止した。

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