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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 87

 …と、こういうやりとりがあったのである。
「皆は先に金谷宿の八幡屋で待っていて。あたいはきっと上様を連れて帰ってくるから!」
 そう言い終わるか終わらぬうちに、楓の姿は風のように大二郎たちの視界から消え去っていた。

「う…う、う―ん。はっ!」
 家竜が意識を取り戻したのは粗末な漁師小屋の中だった。
 聞こえてくるのはぱちぱちとはぜる焚き火の音。そして鍋が煮えるグツグツという音。
「はっ! 良かった! お侍様、やっと気がついただね?」
 少女の声がする。
 横を向くと、傍らにはまだ幼さが残る少女の顔があった。長い髪を後ろで縛り、八重歯が可愛らしい。
 家竜は裸のまま寝かされ上から筵がかけられている。
「丸一日寝てて腹減ってるだろ? 待ってな。今、雑炊よそってやっから」
 少女がごそごそと筵の中から這い出してゆく。
 突然、視界に現れた褐色の裸身にどきっとした。どうやら裸になって家竜の冷えた身体をずっと温めてくれていたようだ。
「お侍様は丸太に引っかかって流されてきただ。ほんと運がえがったなぁ!」
 日本では古来より河川を利用して木材を運搬する方法がとられており、この大井川も例外ではなかった。島田宿は木材の集積地としても発展していたのである。
 しかし大井川では切り出された丸太で筏(いかだ)を組んで流す『筏流し』が禁じられていたため、丸太をそのまま流す『管流し』という方法が取られていた。
 回収し損なった丸太が下流に流され、家竜は偶然それに引っかかったのだ。
 水中で甲賀くノ一たちを振りほどいて水面まで浮かび上がった屈強な肉体があったればこその話だが、家竜は最後まで強運の持ち主であった。

 少女は投げ出されていたボロをそのまま素肌にはおった。
 着物は丈が短く、ちょっと屈めば尻が丸見えになってしまう。
 その後ろ姿を見た時、家竜は思わず己の目を疑った。
 こちらに向けられた可愛らしい尻。その二つの尻たぶの間から見え隠れする性器が、あまりにも無残な形状だったからだ。
 少女の御満子はまだあどけなさの残る幼い身体には不釣合なほど爛れて肥大化し、著しい色素沈着があった。その荒れ具合は場末の飯盛女といい勝負だろう。
(…なんという酷いことを!!)
 少女が日頃から何をされているのか、考えるだけでふつふつと怒りがこみ上げてくる。
(この子の親ってのは人か、それとも鬼か…?)
 怒りを紛らわそうと、家竜はわざとおどけた明るい調子で喋り出した。
「ほんっとありがとうよ! おかげで命拾いしたぜ! 嬢ちゃん、名前はなんていうんだ?」
「おら、はつって言うだ」
「おはつちゃんか。いい名だ。ところでここは何処なんだ?」
「ここは吉田村(現在の静岡県榛原郡吉田町)だぁ」
 吉田村といえば、島田宿の大井川川越(現在の静岡県島田市河原)から計算すると約四里半(18km)は離れている。大分流されたようだ。
「お侍様こそ、お名前は何て言うだ?」
「俺か? 俺は家田竜二郎。竜さんって呼んでくれ」
「えっ?! お、おら、お侍様をそんな気安い名前じゃ呼べねぇだ…」
 おはつは手を前で合わせたまま身体を揺らし、もじもじしている。
「いいってことよ。気にするこたぁねぇぜ」
「でもぉ…。あっ! 雑炊が煮つまっちまうだよ!」
 おはつはあわてて鍋の蓋を開けて欠けた茶碗に雑炊をよそると、黙って家竜に差し出した。
「じゃあ…。遠慮なくいただくぜ」
 家竜が受け取った茶碗を覗くと、中身は雑穀に魚のすり身と少量の野菜を加え、味噌で煮込んだ簡素な料理である。
 しかし、何とも良い香りがする。ごくりと唾を飲み込んで、雑炊を一気にすすり込んだ。
 そのまま…二杯、三杯と立て続けに平らげてゆく。
「はぁ、お侍様、なんて胃袋だべか?! おらびっくりだ!!」
 雑炊をよそりながら唖然とするおはつ。家竜は凄まじい食欲を発揮し、土鍋はあっという間に空になってしまう。
(こんなに旨いものは食ったことがない…!!)
 そう心の中で呟く家竜の目には涙が光っていた。
 死の淵から甦った家竜にとっては五臓六腑に染み渡る至福の味であった。

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