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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 81

 …と、その時。
「あたしのことなぞ、どうぞ気にしないでおくんなさいまし」
 突然の声に家竜は驚いた。
 お蝶はいつのまにか目を覚まし、家竜の思案顔を覗き込んでいたのだ。
「お…お蝶! いつから起きて・・・!」
「密かにお慕い申し上げていた貴方に思いがけず一夜のお情けをいただき、お蝶は十分幸せ者です。あたしはこの思い出を胸に一生生きてゆきます」
「し、しかし…」
 言いかけた家竜の唇にお蝶の柔らかい指がそっと当てられた。
「いいんですよ、それだけで。あたしは身体の隅々まで見世物にされ、生き恥をさらし尽くしました。この界隈ではもう侠客としちゃやっていけません」
 一体どうするつもりなんだ、と言いかけた家竜の口を再び指が塞いだ。
「あたしのために傷ついた松五郎の傷が癒えたら、この家を出てどこか遠いところでひっそり暮らします」
 そう言い切ったお蝶の瞳には強い意志の輝きがあった。
 家竜はもう何も言えず、黙っているしかなかった。答える代わりに強く抱きしめる。
 お蝶は強い女だ。きっとどこでも立派にやっていくだろう。
 そのまま二人は何も言わず、抱き合ったままで夜明けを迎えたのだった。

 気になる読者のために、簡単な後日談を語っておこう。

 後にお蝶は清水一家をこっそり出ていこうとするところを回復した松五郎に引き止められる。
 姐さん俺のために行かないでくれ、好きなんだ、と男泣きに泣いてすがりつく松五郎。
 その熱い情にほだされてお蝶は松五郎と夫婦となり、二代目長次郎を名乗って清水一家を継いだ松五郎を陰から支え、一家を盛り立てたという。
 そして祝言を挙げた後ですぐに生まれた子供が三代目長次郎である。子供の父親が松五郎なのか、家竜なのか、今に伝わる資料に確たる証拠はない。父親はお蝶だけが知っている。
 この三代目長次郎は生まれつき肝の太い子供で、見る見るうちに頭角を現し、一説には三百人もの子分を抱える東海一の大親分となったという。
 この度胸と腕っぷしなら誰にも負けず、義理人情にも篤い三代目長次郎の逸話が後年面白おかしく作り替えられ、様々な講談や浪曲、はたまた映画の題材にまでなったのであるが、それはまた別の話…。

******************************

さて事件から数日後。
黒狗の駒蔵と元代官・貝原左兵衛が吟味に掛けられる事に成り、その証人としてお蝶と清水一家の面々が呼び出された。
「駿府町奉行・橋爪石見守様、ご出座〜」

ドン!ドン!ドン!ドドン!!

係りの役人の声と太鼓と共に駿府町奉行である橋爪石見守が登場した。
「「「「「「は、は〜」」」」」」」
現在の駿府町奉行である橋爪石見守は、同時に浜松の藩主でもあり、まだ若年の為老中には成っていないが、将来的には老中首座処か、大老の地位さえ狙えるのではとされる若手1の俊英だった。
本来奉行職は、幕臣の中でも旗本か御家人が就く事に成っているが、譜代大名にも若い内は実際の業務経験を積ませるべきだという考えが起り、数代前の将軍の頃から譜代大名も数年の間奉行職に就かせる事に成っていた。(まあキャリアの警官が若い時に地方の警察署の署長をやらされるようなものでしょう)
当然大名と町人では身分が違う為、両者の間には御簾が下ろされ、白洲の罪人からは奉行が見えない様工夫されていた。
「これより元代官・貝原左兵衛と町人駒蔵の年貢横領と収賄および町人駒蔵の犯した罪の黙認について吟味を致す、一同の者面を上げい」
奉行の言葉に従い土下座していた人々が顔を上げる。
「さて貝原左兵衛・町人駒蔵、両名は数年前から手を組み、貝原左兵衛は代官の地位を利用し、町人駒蔵の犯した罪の黙認。町人駒蔵はそれと引き換えに多額の賄賂を貝原左兵衛に送り、同時に年貢横領を行ったとあるが相違無いか?」
この言葉に駒蔵はふてぶてとした笑みを浮かべながら反論する。
「恐れながら申し上げます。今のお奉行のお言葉全て無実に御座います。確かに身共は貝原様には親しくさせていただいておりますが、賄賂と言えば季節毎に珍しい菓子を持ってご挨拶に伺う程度・・・確かにそれを賄賂と言われれば反論のしようが御座いませんが、まさかそれが罪だとでも?まして罪の黙認や年貢の横領に至っては、微塵も覚えがございません」
駒蔵のこの言葉に勇気付けられたのか、横に座っていた貝原も勢いよく反論する。
「恐れながら橋爪様、これは全く意味のない白洲です。この貝原左兵衛この町の代官を任じられて以来。誠心誠意仕事に精を出してきた心算でございます。その事は勘定奉行である沼田様も良くご存じのハズです・・・恐れながら橋爪様はまだお若い。無実の身供をここに座らせ罪人扱いなどなされば、御身のお立場も危うくなると愚考しますが?」
貝原はとぼけた様に無罪を主張する、それだけでなく自分の属している派閥のトップの名前を出す事で、暗に圧力をかけている心算のようだ。

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