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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 72

 ここは興津宿の色町である。
 その中の一軒の遊郭で悪代官と黒狗の駒蔵が酒を酌み交わしていた。
 代官所でさんざんにお蝶に蹴られて血まみれになった駒蔵は、縁起直しに代官を誘って遊びに来たのである。
「おい…本当にお蝶を磔刑にかけてしまってもよいのか? あんないい女を…なんと勿体無い話よ…」
 代官が実に残念そうな顔で言う。
 酒をちびりちびりとやりながら、駒蔵が答えた。
「大丈夫ですよお代官様、殺しゃしません。お蝶は男勝りの鉄火肌。素っ裸で引きずり回してさんざんに辱め、侠客としての意気地を砕いてやるんでさ。そうすりゃきっと大人しい良い女房になると明神の常吉が入れ知恵してくれたんで」
「ふむ…なかなか良い考えだが、槍でうっかり突いてしまったら殺してしまうぞ?」
「その点も大丈夫でさ。今頃、常吉が槍突き人夫に袖の下を握らせて、先端が竹光になった槍と取替えさせておりやす。それならちょっとくらい突く真似をしても死にゃしません。殺されたと思ってお蝶が気を失ったら下ろしてやりゃあいいんです」
「常吉とやらは、ずい分と悪知恵が働く男よのう…」
「あの男、なかなかに大した奴でございますよ。でもお代官様の悪知恵にはかないません。年貢米をごまかして私腹を肥やすなど、恐ろしくて私にはとても出来ません」
「こらっ! うかつなことを言うでない! 誰かに聞こえたらどうする?!」
 代官は慌てて扇子をぴしりと駒蔵の肩に当てた。

「もし…」
 その時、障子の向こうから突然聞こえる声。二人はビクッとして振り向いた。
「何奴じゃ?!」
「芸者でございます。こちらのお座敷にうかがうよう明神の常吉さんから頼まれまして…」
「何? こいつは驚いた。常吉の奴、妙に気が利きやがる…」
「おお、そうか。では顔を見せよ!」
「はい…」
 代官の命令と共に障子がすっと開けられ、左右から芸者が顔を覗かせた。
 芸者は二人でいずれもたいそうな美人だ。
「楓奴にございます」
「…み、雅奴にございます…」
 楓奴と名乗る芸者は小柄で目が大きく、利発そうな顔をしている。
 雅奴と名乗る方は少し大柄だが、色が白く整った顔立ちをしていた。
「おお、どちらも美しいではないか! ささ、中に入って近う寄れ!!」
 やにさがる代官の左右からぴったりと寄り添う二人。
「ささ、お代官様。ぐっと空けて下さいな…」
 楓奴が代官の持つ盃に酒を注いでいく。
 その様子を見て羨ましそうな顔をした駒蔵は揉み手でにじり寄った。
「お、お代官様…。お一人で二人も相手するのは大変でございましょう。私めにも手伝わして下さいませんか…?」
「ん? 駒蔵まだおったのか? ワシはこれから忙しいでな。今夜はもう帰って良いぞ?」
 すっかり上機嫌な代官に対して駒蔵は悔しそうな顔だ。
 好きなだけ飲み食いして芸者遊びまでされて、どうせお代は自分持ちなのだ。まさに踏んだり蹴ったりだ。
 こそこそと駒蔵が座敷から下がっていくと、代官はますます図に乗って二人の芸者を両手で抱きしめた。
「楓奴、雅奴。二人とも今夜は帰さぬぞ! じっくり可愛がってやる。うひひ…」
「あい。喜んでお付き合いいたします」
「わ、私も…よ、喜んで…」
 芸者言葉も流暢でにこやかな楓に対して、慣れない芸者姿で受け答えがぎこちない雅だが、代官はそんなことを気にしている様子もない。
 代官はいやらしい手つきで楓や雅の胸や尻を触りながら、注がれるままに次々と盃を飲み干していった…。

 半刻ほど後。
 楓と雅はすっかり酔いつぶれた代官を見下ろしていた。
「まったく…。人の身体をさんざん触りまくって…このスケベ爺ぃが!」
「盃に眠り薬を盛ったのですが、思ったより持ちこたえましたな」
 楓はその場にばさりと着物を脱ぎ捨てた。下からいつもの忍び装束が姿を現す。
「それよりも雅。あたいはこのまま代官所の帳簿を調べに行くから、あんたは一人で先に帰っていて。年貢米のごまかしの証拠を掴んで勘定奉行に知らせておかなきゃ」
 楓はそう言い残すと風のように消え去った。

 そして一夜が明け、こちらは家竜一行が泊まる旅籠。
 朝も早くからその部屋にどかどかと駆け込んでくる者があった。
「兄さんッ! 起きてくだせぇ!!」
「何だ? 俺ぁ病気なんだよ! ほっといてくれ!」
 布団にくるまってふて寝する家竜が声を荒げると、大二郎が黙って布団を剥ぎ取った。
「こら手前っ! こちとら病人だぞ!! …おっ? おめぇ、お蝶さんところにいた若い衆じゃねぇか!! お蝶さんに何かあったのか?!」
 必死に仮病を使って頑張っていた家竜だったが、これには思わず飛び起きた。
 見れば、松五郎の手下の一人・市蔵である。
 その着物は乱れ、髪を振り乱し、汗まみれで一晩中走り回っていたものと思われる。
「兄さん、た、大変なんでさ…姐さんが…」
「どうした! 早く言え!」
「今日、これから…町外れの刑場で磔獄門にされるんですよっ!!」
「何だとぉ?! お蝶さんが殺されるってのに黙って見てる気か? 松五郎はどうした、松五郎はっ?!」

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