暴れん棒将軍 66
(ウホッ!! これは役得! 早起き…じゃねぇ、夜更しは三文の得だぜ!!)
家竜はたちまち股間の逸物が隆々と起き上がるのを感じていた。
思わずよだれが出るような光景であるが、
(やぁお蝶さん、いい月夜だね。どうだい、一緒にお月見でもしねぇかい?)
…と声をかけて口説こうかと思っていた家竜は、逆にこれでいっそう出て行きにくくなってしまった。しばし考え込む家竜。
(どうしたもんだろう…。んっ?!)
そんな時、お蝶の異変に気がついた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
息遣いが荒くなっている。蜜壷に入り込んだ右手の指がかせわしなく上下し、左手は亀裂の上方にある肉莢を揉み込んでいるのだ。
ちゅくちゅくちゅくちゅく…っ。
さらに湿った音が響く。
「あぁんっ…。長次郎さん…どうしてあたしを置いて逝っちゃったのぉ…?」
半開きの口元からよだれを垂らしながら呟く。
「…ううっ!」
指の動きが突然止まった。
びくびくと痙攣している。どうやら登り詰めたらしい。
しばらく快感の余韻に浸ると、お蝶は浴衣を羽織って後片付けを始めた。
そこにそっと近づいてきた一人の男。
先刻の乱闘の時にもいたお蝶の子分だ。名を『明神の常吉』と言う。
「姐さん…」
「はっ! あんた何してたのさ! 一体いつからそこにいたんだい?!」
お蝶は胸元を合わせて身構える。
思いつめた顔をした常吉はいきなり抱きついた。
「姐さん! 好きなんだ! 俺と夫婦になってくれっ!!」
「嫌ッ! 馬鹿なことお言いでないよ! 人を呼ぶよっ!」
声を出そうとするお蝶の口を、さっと常吉の手が塞いだ。
「姐さん、出入りの後は身体が火照って仕方ないんだろ? いつもこっそり自分で慰めてるのを俺は知ってるんだぜ!!」
にゅるんっ。
そう言うなり、常吉はお蝶の両脚の間に指を潜り込ませる。
「…むぐうっ…!!」
「ほうら…こんなに濡れてるじゃねぇか! 俺が慰めてやろうってんだよ! おとなしくしねぇかいっ!!」
常吉はニヤニヤしながらお蝶の中をまさぐっている。
「待ちな! お蝶さん嫌がってるじゃねぇか」
家竜は常吉の襟首をぐいっと掴んだ。
「何だ?! 簀巻きにされてた野郎か。てめぇは引っ込んでろ!」
そう言うなり、常吉はお蝶を放り出して殴りかかった。
ぶんっ!!
しかし常吉の拳は宙を切った。
上体を逸らして紙一重で避けた家竜は、常吉のとがった顎を素早く拳で打ち抜く。
「うぐっ!!」
瞬時に脳震盪を起こした常吉はその場にへなへなと崩れ落ちた。
見ていたお蝶もあっけにとられている。
「こいつは勝手口から外に放り出しといていいかい? その方がお蝶さんも安心して眠れるだろう?」
常吉を軽々と抱え上げて微笑む家竜にお蝶はなんとも言えない頼もしさを感じた。
「旅のお方、竜助さんとか言ったねぇ…。こんなにお強いのに、どうしてまた金蔵のとこの三下に簀巻きにされちまったんだい?」
(やべっ! しまった!)
「…いやなーに、奴のとがった顎をちょいと撫でたら伸びちまっただけさ。偶然だよ」
家竜はあわてて取り繕った。
後で藤兵衛に怒られるかもしれないが、その時は知らんぷりしておくしかない。
「ふわ〜…。何だか眠くなってきた。お蝶さんもそろそろ寝た方がいいぜ?」
さっきの覗きを気づかれてはまずいと、家竜はすぐに話題を変えた。
「あ…ありがとうございます…」
お蝶は深々と頭を下げた。
そして翌朝。
勝手口に放り出されていた常吉はいつの間にかいなくなっていた。
「いやぁ、いい朝ですなぁ!」
ぐっすり眠った大二郎が大きく伸びをした。
三人は井戸端で顔を洗っている。ガラガラと口をゆすいでいる家竜に藤兵衛が声をかけた。
「竜さんや。あんた昨夜の夜中、どこに行っとった?」
ぎくっ!
家竜は思わず口に含んだ水をごくんと飲み込んでしまった。
「さ、さぁ…? 知りませんね、ご隠居。寝ぼけてたんじゃないですか?」
「ワシの目は誤魔化せませんぞ? 一体何処へ行っとったんですかな?」
問い詰められて家竜が困っていると、大きな影がのそりと近づいてきた。
見れば、常吉と同じく昨夜の出入りの時にいた隻眼の大男だ。この男、名を『追分の松五郎』と言う。
「姐御から話は聞いた…。あんたの腕を見込んで頼みがある」
「どうした兄さん、急にかしこまって?」
「何にも言わずに俺たちに手ェ貸しちゃくんねぇか? この通りだ!!」
松五郎がその巨体で土下座したのには一同がびっくりした。
「お兄さん、顔をお上げなさい。ワシらには何のことやらさっぱりわからんが…」
藤兵衛が尋ねると、松五郎はあらためて家竜の方を向いて土下座し直した。
「姉御に言い寄った常吉の野郎をあんたが一発でのしちまったと聞きやした。常吉はいけすかねぇ奴だが、腕は相当なもんだ。奴より強いとなりゃあ、こんな頼もしい話はねぇ。お願いだ、うちの用心棒になってくれ!! 金なら出す!」