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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 61

 楓はこの針で家竜たちの秘孔を突き、心拍数や呼吸数を極端に下げ動物の冬眠状態のようにした。そして爆発が起きた時にすぐに意識を取り戻すよう暗示をかけておく。もちろん自分にも同様の術をかけたことは言うまでもない。

「屋敷が燃え落ちればあいつらは必ず死体を確認するはずだから、その瞬間に賭けたのさ」
 楓は泥まみれの顔で、ふふっ…とかすかに笑う。その横顔は恐ろしい忍者との戦いを制した自信に満ち溢れていた。
 後ろから家竜が呼びかけた。
「助かったのは良かったが、こんなバカでかい音がしたら誰か駆けつけてきて大騒ぎになるぞ?」
「そうだね…。上様たちは早くここを離れて山に入って隠れていて。あたいは町に戻って着物と食べ物を探してくるから」
 楓はそう言うが早いか、家竜らの目の前から消え去っていた。
「お、おい! …まったく気の早ぇ女だ…」
 家竜が呆然としていると、今度は藤兵衛が横から声をかける。
「楓ちゃんは本当にお前のことだけを考えておるんじゃよ。可愛い女じゃないか」
「あれでもうちょっと愛想と可愛げがあればなぁ…」
 そう言って苦笑する家竜もまんざらではなさそうだった。

 一夜明けてここは香貫山の山中。
 昨夜の火事と爆発騒ぎで沼津宿は騒然としている。
 どさくさに紛れて必要な荷物を調達してきた楓は家竜らと谷川の川原で落ち合っていた。
 楓はにこにこしながら大きな風呂敷包みをどっかと下ろした。
「はい。皆の着物とおにぎり、持ってきた」
「…どうやって手に入れたかは聞かないでおいてやるが…」
 家竜はぶすっとした表情で答えた。
「盗人の真似なんかしたくはなかったけど、誰かさんが他の女に鼻の下を伸ばしてあたいを置いていくからこんな羽目になったんだよ」
 楓はにやにやしながら言い返す。
 家竜たちは谷川で身体を洗い、川原の茂みに隠れてずっと楓を待っていた。
 空腹を抱え冷えた身体では何も出来ない。昨夜から世話になりっぱなしで家竜はいささか気が引けているのだ。そこへ楓の強烈な一言。
「ところでお礼は? 言わなきゃあげないよ?」
「…ありがとうよ…」
「わかった。それと、一段落ついたら一杯可愛がってね?」
 楓に言われて渋々頷く家竜であった。
「…それよりも早くいただいてもいいですか? 腹が減っては戦が出来ぬと申します」
 すかさず大二郎が割り込んだ。
 座り込んで包みを開けると、竹の皮にくるまれた握り飯を頬張り始めた。
「おい大二郎、雅のことはほっといてもいいのか?」
「ええ、先ほど手足を縛って茂みに寝かせておきましたゆえ」
「馬鹿者っ! 雅の姿が見当たらんぞ!! あやつ、縄抜けしおった!」
 叫びながら藤兵衛が駆け寄った。
 家竜がはっと振り向いた時には既に遅かった。

「きえ―――ッ!!!」
 鋭い気合と共に、刀を構えた雅が怪鳥のように飛びかかってきた。
 どくん。どくん。どくん。
 家竜の脳内ではこの一瞬が何十秒にも感じられる。
 下帯一丁という刺激的な格好で豊かな乳房を揺らしながら迫ってくる雅。
 網膜には美しい姿の女の死神が焼きついていた。

 ビュン! ビュン! ビュン!

 空中からのすさまじい突きの連続!
 藤兵衛が身を挺してかばおうとしたが間に合わない。
「フンガッグッグ!!」
 大二郎は握り飯を喉につまらせて悶えながらあわてふためいている。
 とっさに倒れ込んで避けようとしたが身体を反らすのが精一杯だった。
 家竜の左肩に鈍い痛みが走った。
「上様、危ないッ!!」
 コンッ。
 楓が小石を拾って雅の額にぶつけた。
「うっ?!」
 一瞬、視界を遮られた雅が地面に降り立つと、後ろから素早く回り込んだ楓がみぞおちに拳を突き入れた。
 ドンッ!
「…うぐっ…!」
 気を失った雅は楓の腕の中に崩れ落ちた。
「ふう…。ヒヤヒヤさせやがるぜ。おい大二郎! お前が雅の監視をサボるからこんなことになるんだ!」
「お主は図体ばかり大きくても役立たずじゃ。まったく情けない男じゃのう。喝ッ!!」
 藤兵衛は倒れ込んでいる大二郎を抱き起こして喝を入れた。
「…まことに申し訳ありませぬ! しかしながら、私は女人が苦手なのです! ましてや裸ともなれば、まともに見ることもかないませぬ…」
 大二郎がその巨体を縮めて真っ青な顔で必死に言い訳をする様子はどこか滑稽でもあった。
 聞いている藤兵衛も呆れ顔である。
「だからいつもあれほど油断をするなと言うてあろうが! 雅の腕をあなどるでない!」
「…しかし、どうしてそういつも父上は察しがよいのです? 先夜の宿でも風呂場に鉄扇など持ち込んで…。何故あれが罠だと気づかれました?」
「あぁ、あれか? あれは料理の味でわかったのじゃ。屋敷に似つかわしくない野暮な田舎料理の味じゃったからの。きゃつら、入れ替わる時に料理人まで始末してしまい、仕方なしに自分たちで料理を作ったのじゃろう」
「なぁるほど…。さすが父上」

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