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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 60

 その様子をじいっと見つめて考え込んでいた楓は突然叫んだ。
「そうだ、いい手があるよ! みんなよく聞いて…」

 数刻後。
 幾条もの黒煙が立ち上る屋敷の焼け跡。
 黒装束に身を固めた男たちが、未だぶすぶすと燻る瓦礫を囲んで集まっていた。
 言わずと知れた裏柳生の生き残りである。

「…すっかり燃え落ちたな」
「きゃつらがが逃げ出した形跡はない。きっと焼け死んだのだろう」
「しかし、仕掛けた火薬が爆発しなかったぞ?」
「あやつらも馬鹿ではあるまい。ロウソクの火薬に気づいてどこかに埋めたのだ」
 後ろから大柄な人影が近づくと、話し合いを続ける男たちがさっと脇に控えた。
 見れば、先程まで『仁左衛門』と名乗っていた男である。本当の名を『白鴉』という。
「ぶつぶつ言うておる暇があったら瓦礫を取り除けて死骸をあらためよ!」
 白鴉の命令で男たちが焼け残った柱や壁を片づけ始める。
 数里先の街道沿いの土手には大量の骸が転がっていた。
 これは火事の報を聞き、駿府城代から駆けつけた役人たちの成れの果てであった。
 屋敷の炎を消し止めたりできぬよう邪魔者は始末してしまったのだ。

 男たちは手に手に鍬や鋤を持って黙々と作業を続けていたが、やがて一人の男が叫んだ。
「お頭! それらしい骸が見つかりました!」
「何っ? 本当かっ?! 見せてみろ!!」
 だっ、と男たちが駆け寄った。
「ご覧下さい、この派手な襦袢を…。あの小憎らしい爺ぃが着ていたものにござります」
「他の死骸はどうじゃ? あるとすれば男三人、女二人とまとまって見つかるはずであろう!」
 白鴉の命令でさらに発掘が続けられた。
 最初の一体をどかしてみれば、その下には複数の死骸が折り重なるようにしてあるではないか。
 そのまま次々と死骸を掘り起こしてゆくと、たしかに男…女…女という順で重なっており、家竜らの一行と符合する。
 そして最後に五人目となる男の死骸が引っ張り上げられた。
「それは本当に家竜の死骸か? ようく検分してみよ!」
「ははっ!」
 しかしその時、男たちの一人が不審なものに気づいた。生焼けの足首に荒縄が何重にもくくりつけられているのだ。
「うん? 何だこれは?!」
 ぐいっ。

 グワッ! ズガ――――ンッ!!!

 縄を引っ張った瞬間、閃光がきらめき周囲が大爆発した。
 白鴉たちは一瞬のうちに吹き飛ばされ、腕が、足が、胴がちぎれ飛んだ。轟音が響き、もうもうと煙が立ち上る。


「ふふふ…。どうやら上手くいったみたいだね…」

 ガラガラと瓦礫の下から女が這い出してきた。
 全身泥まみれ、煤だらけでわかりづらいがたしかに楓である。何も身につけず素っ裸だ。

「上様、大二郎、お師匠。もう大丈夫だよ!」

 楓の言葉を聞き、瓦礫を持ち上げて大二郎が立ち上がった。
 その下から家竜らがぞろぞろと這い出してくる。みな下帯一枚の裸だ。
 やはり全身泥だらけである。

 ここで説明しよう。
 楓が使用したのは甲賀流忍術『微塵がくれ』。
 これは出口のない洞窟に火薬を仕掛け、己は土遁の術で土中に隠れたまま爆発させて自爆したと思わせて危機を逃れたり追っ手を爆殺する秘伝の術だ。
 甲賀くノ一と屋敷内でかき集めた火薬入りロウソクと屋敷の住人の死骸が埋められた深い縦穴を見て、楓がとっさに思いついた妙案であった。
 しかしこの術を使うこと自体が非常に危険な賭けである。
 まず炎が燃えさかる屋敷で使用する場合、予期せぬタイミングで火薬が爆発してしまえば元も子もない。これを防ぐために穴に埋められていた死骸に自分たちの着物を着せ、仕掛けた火薬の上に何重にも折り重ねるように配置した。
 最後の死体にはヒモをくくりつけ、これが引かれた瞬間に火薬が爆発するよう調整したのだ。
 そして地中から呼吸用の竹筒を出したとしても、炎と煙の中では酸欠状態になり窒息してしまう。
 そこで楓は土中に潜る際、もうひとつ秘術を使っている。鍼術である。
 おきぬの死骸をあらためた時、結われている髪の中から見つけた細い針の束。これを見た時、楓は瞬時に用途を理解した。

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