PiPi's World 投稿小説

暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

の最初へ
 57
 59
の最後へ

暴れん棒将軍 59

「きえ――ッ!!」
 油の匂いが漂う中、新たな障子を開けるたびに、いくつもの刺客の剣が閃いた。
 大二郎が、藤兵衛が、これをかろうじてかわしつつも返り討ちにしてゆく。
 楓が、辺りを見回す楓は廊下に立てられた燭台のロウソクにも異常を感じ取った。
「上様! このロウソク、中に火薬が仕込んであるよッ!」
「何? 俺たちを焼き討ちにするばかりでなく吹っ飛ばす気かッ?!」
 楓は素早く周囲のロウソクを手に取って懐に入れていった。

 ガクンッ!
 一同の身体が一瞬、宙に浮いた。
 廊下の突き当たりには落とし穴が仕掛けられていたのだ。
 下を見れば槍が林のように突き立てられている。これは楓の投げ縄で間一髪、難を逃れることができた。

「次は一体…何が出てきやがるんだ?」
 バンッ!!
 家竜が物置部屋の障子を蹴倒した。中を見れば一つの小さな影があった。
 おきぬが頭を抱えて震えながらうずくまっているのだ。
「うっ? 何だ、おきぬちゃんか! どうしてこんなところに?!」
「怖い人がたくさん来て…私ここに逃げ込んで隠れていたの! ああ、よかったッ!」
 家竜の顔を認めると、おきぬは泣きながら駆け寄った。
「上様、危ないよッ!!」
 楓が叫んだ時は既に遅かった。
「うぐっ!!」
 おきぬの足袋に仕込んである毒針がスネに突き刺さっていた。
「おのれ…っ!!」
「ぎゃあああああッ!!!」
 家竜の横なぎの一閃が、おきぬを両断した。
 ぶしゅううううう――ッ!
 真っ赤な血を吹いておきぬの美しい身体が沈んでゆく。
「うおおおおおおおお―――ッ!!」
 例え敵であっても女を傷つけたくない家竜は、この状況にたまらず絶叫した。

「危ない! 今度は上からじゃ!!」
 藤兵衛が叫んだ。
「死ねッ!家竜ッ!!」
 なんと、今度は天井にへばりついていた下男の徳兵衛が襲いかかってくる。
「たぁ―――ッ!!」
 大二郎の豪快な逆袈裟が徳兵衛の肩口を切り裂いた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
 何度も死線を越えた家竜は気力を使い果たし、屈み込んでしまった。
「上様…大丈夫? こいつも毒消しを持ってるといいけど…」
 楓がおきぬの血まみれの死骸を探っている。

 パチ、パチ、パチ…。
 屋敷の何処かでかすかに何かはぜるような音がする。
「ムッ。きな臭い…。奴ら、とうとうこの屋敷に火矢を放ったようじゃぞ!!」
 辺りを見回して藤兵衛が叫んだ。

 死骸を調べ尽くした楓が振り向いた。
「ダメだ! この女、毒消しを持ってないよ!! …上様ごめんっ!」
 ザクッ!
 忍刀が閃き、毒針に刺された家竜のスネを切り裂いた。
「う…ぐぅっ!!」
 家竜は足を押さえてそのまま後ろに転がった。
 楓は屈み込んで傷口に口をつけて毒を必死に吸い出してゆく。
 ちううう…。ぺっ! ぺっ!
 そして懐から取り出した膏薬を塗りつけ、首に巻いていた手拭いを素早く巻きつける。
「痺れ薬だから、多分これで大丈夫…だと思うけど…」
 そうしている間にも屋敷の炎はどんどん燃え広がり、周囲はたちまち火の海となった。
 熱気に包まれた一行は互いに顔を見合わせた。
「…これからどうする? 奴らは上手くここから脱け出したんだろ? 地下に抜け穴とかねぇのかよ!!」
 苦しい息の下、家竜は楓に尋ねた。
「ここは私たちを殺すために用意した屋敷でしょ。…多分、あってもそこは真っ先に埋められてるよ…」
 楓は首を横に振った。
「なら、床下に降りて穴を掘り、なんとか炎をやり過ごすのはどうじゃ?」
 顎に手を当てて藤兵衛が呟いた。
「とりあえず下に降りましょう。ここは危険です!」
 気を失ったままの雅を背負った大二郎が叫ぶ。

 炎が迫ってくる。躊躇している暇はない。
 楓が畳返しで床板を露出させ、大二郎が渾身の力を込めて板を叩き割った。
 一同が下に降りると、炎が燃え盛る床上と違って床下は案外ひんやりとしている。しかし四方は分厚い板で覆われ、とてもそのまま逃げ出せそうもない。
 楓は周囲を見渡し、足元の地面を触ってみた。
「土が軟らかい…。何か埋めた跡がある。大二郎! ここら辺りを掘ってみて!!」
「よしわかった!」
 大二郎は両手でざっくざっくと力任せに掘り返す。
「うわわっ!! 手が…手がっ!!」
 土の下から現れたのは血まみれの女の手だった。
「何だと? どれワシも掘ってみよう…。ムッ! こ、これは…」
 掘れば掘るほど出てくる死骸の群れ、おおよそ男女十数人はいるであろうか…。床下には大量の死骸が埋められていたのだ。
「裏柳生の奴ら…ここの屋敷の住人をまとめて始末して入れ替わったんだな…! 血も涙もねぇ鬼畜どもが…っ!!」
 家竜が拳を握りしめて思わず怒りの叫びを上げた。

SNSでこの小説を紹介

時代物の他のリレー小説

こちらから小説を探す