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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 58

 楓は丁寧に菖蒲たちの身体を探り、胎内から毒消しの包みを取り出した。
 家竜と大二郎が藤兵衛を助けおこして薬を目に当てていると、屋敷の方から駆け寄ってくる者があった。

「竜乃進さまっ! お怪我はありませぬかっ?!」
「お武家様! これは一体何事ですかっ!? うっ…!!」
 着流し姿の裾を乱し、刀を構えた雅と主人の仁左衛門であった。
 辺り一面に広がる血の海。そこに浮かぶ女たちの無残な死体。
 血なまぐさい匂いがたちこめる凄惨な光景に、仁左衛門は思わず口を押さえた。
「…ご隠居…すまねぇな…。風流な露天風呂を血の海にしちまった…」
 息を切らしながら家竜が詫びると、肉の厚い首を横に振って仁左衛門は答える。
「とんでもないことでございます! それよりもご無事で何より! お武家様方は何か訳ありのご様子。代官所には上手く言い訳いたしますから、早々にここをお発ちになっては…?」
「うむ。そうした方がいいかも…しれぬな…」
 藤兵衛を抱え上げた大二郎も同意した。

「おぉ〜い、お客人がお発ちになるそうだ! 支度をしておあげ!」
 一行が屋敷に上がり、仁左衛門が女中に声をかけた瞬間だった。

 ゴゴゴゴ―ッ!! ガチャン! ガチャン! ガチャン!

 天井から格子が降りてきて出入口をふさぐ。
 窓にも次々と分厚い扉が下りてゆく。一同はあわてて辺りを見回した。
「あっ!!」
「しまったっ!!」
「やはり罠だったのか?!」
「…だから、ワシが用心せいと言っておろうが…」
「父上っ! お気づきになられましたかっ!!」
 ようやく意識を取り戻した藤兵衛に、大二郎が安堵する。
「お主、謀ったな!!」
 シュッ!!
 雅の剣が鞘走ったが、仁左衛門はひらりとかわして軽々と中に舞った。
 階段の踊り場に降り立つとにやりと笑った。
「さっきの縛円陣をようかわした。しかし我ら裏柳生がこれしきのことで諦めると思うてか? ここがうぬらの最期じゃ!! さらばっ!」
 トントントンッ!!
 楓が手裏剣を投げるが、仁左衛門はこれもかわす。手裏剣は虚しく壁に突き刺さった。
「おのれ〜っ!!」
 大二郎が刀を抜いて駆け登ろうとした瞬間、階段ががくん!と崩れ落ちた。
「うわっ!」
 ズダダダ――ンッ!!
 転がり落ちてくる大二郎の上から、強烈な匂いの液体が降りかかった。
「な、何だこれはっ?!」
「油だっ! 天井から油が滴り落ちてくるぞっ! 気をつけろ!」
「上様、まずいわっ! どこか逃げ場所を探さなきゃ!」
 楓の先導で四人が奥座敷に向かう渡り廊下にさしかかった時、家竜は不意に後ろから殺気を感じ取った。
「きえ―――ッ!!!」
「危ねぇっ!!」
 家竜は大二郎と藤兵衛を突き飛ばすと自分も転がった。転がりながら見上げると、そこには刀を構えた雅が立っていた。
「雅…一体お前…」
「問答無用! 家竜、覚悟っ!!」

 シュン! シュン!

「死ねっ! 家竜ッ!!」
 雅の振るう剣の鋭い切っ先は、常に家竜の首を狙っていた。
 雅の必殺剣をまたくらってはたまったものではない。家竜の背中を冷や汗が流れた。
「上様、危ないッ!」
 楓が脇から飛び出して雅に体当たりをくらわす。雅は思わずよろけて尻餅をつく。
 揉み合っている二人をよそに、家竜が必死に避けて中庭に転がり出た時だ。
「きえ―――ッ!!!」
 今度は屋根から複数の影が飛び降りてきた。
 刀や手槍を構えた裏柳生の刺客であった。閉ざされた屋敷の中での襲撃は自らも死を覚悟してのものだろう。

 キン! キン!
 家竜は慌てて刀で攻撃をはじくが、全てはかわしきれない。背後に殺気を感じた瞬間だった。
「うおおおおお――――ッ!!」
 今度は大二郎が飛び出してきてぶち当たった。
「ぐおおあっ!!」
 大二郎の巨体に跳ね飛ばされた刺客たちは吹っ飛んで塀に激突する。
 すかさず床に低く身を伏せた藤兵衛が、くノ一たちから奪い取った手裏剣を続けざまに叩き込んだ。
「ぎゃあああッ!!」
 刺客たちの悲鳴が上がった。
「家竜ゥ――――ッ!!」
 今度は楓をはねのけ、雅が鋭く跳躍して襲いかかってくる。
(ヤバイ! 避けきれねぇ!)
 家竜の顔から血の気が引いた。

 ガシッ!
 しかし、追いかけて跳躍した楓の手刀が雅の首筋に叩き込まれる。
「ううっ!」
 雅は気を失い、がっくりと崩れ落ちて楓に抱き止められた。
「はぁ…はぁ…。何だこいつ、突然裏切りやがって…」
「上様、雅の目を見た? いつもの金瞳の輝きが消え、うつろな目をしていた…。きっと甲賀くノ一の術にかかったんだ!」
「ちきしょう…。手間かけさせやがって…!」
 家竜は吐き捨てるように言うと、一行と共に出口を求めて屋敷を進んでゆく。

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