暴れん棒将軍 54
チクリ。
雅は首筋にわずかな痛みを感じた。
「な…何を…っ?!」
「秘孔に針を打った。もう身動きできまい?」
耳の後ろでおきぬの声が冷たく響く。
「あ……あ……っ。うううっ!」
がくがくと顎が動くばかりで声が出ない。全身を痙攣させながら、雅は何とか助けを呼ぼうと呻き続ける。
「身体の自由を奪ってしまえば得意の金瞳も使えまい?」
「う…っ! ぐ…っ!(貴様…、刺客だったのか?!)」
「お前たちの道中をずっと監視していたのだ。箱根で大層な見世物をやった時も、逐一見せてもらったぞ…」
(そんな…っ!!)
その瞬間、雅の顔がかっと火照り、耳の付け根まで真っ赤に染まった。
おきぬは震えている雅を後ろからどん、と突き飛ばした。大きく体勢を崩してばったりとうつ伏せに転がる。
にゅるっ。
だらしなく開かれた両脚の間からのぞく女の蜜壷。そこにおきぬの指が潜り込む。
中で二本の指が『く』の字型に曲がり、膣壁を抉るようにぐり、ぐり、と掻き出す。すると、精液の塊がどろーり…と流れ出した。
「ほーら、これがしたかったんだろ? おお汚い!」
「う"う"う"う"――っ!!(やめてぇ――っ!!)」
同性の侮蔑の眼差しに晒されながら牝穴をほじくられる恥辱に雅は呻いた。
おきぬは目ざとく岩陰に隠してあった汚れた下帯を見つけ出すと、丸めて雅の口の中に押し込んだ。
濃厚な精液と愛液、汗やおりものが入り混じった、塩辛く生臭い味が口中一杯に広がる。
「む…ぐううっ! …うげぇっ!」
こみ上げる吐き気にむせる雅の視界が涙で歪んだ。
「無様な姿だねぇ! 敵の肉棒のとりこになった恥さらしな牝犬にはお似合いさ! これからお前に、本当の使命を思い出させてやる…」
おきぬは髪の中からすっ…と数本の針を取り出して見せる。
それを見た雅の表情が、恐怖に引きつった。
「お風呂、先にいただきました。とってもいいお湯でしたわ」
おきぬが浴衣姿で座敷に戻ってきた。
雅も何事もなかったかのように黙って後ろからついてくる。
「いや〜、湯上り美人が二人、絵になるわい。本当にいいもんじゃのう!」
「いやですわ。秋山様。おからかいにならないで」
浴衣姿の二人の色っぽさに、藤兵衛がにんまりとする。家竜も見とれて思わず目を細めた。
「さぁさ皆様。夕餉の支度が整いましてございます」
仁左衛門が女中に大量の料理を運ばせてきた。
家竜らが座る席には名物の地酒、桜えびのかき揚げ、鰻の白焼き、黒はんぺん(サバやアジ、イワシ等で作ったかまぼこ)等が乗る膳が並べられた。
ちなみにこの時代、現代の我々が知る鰻の蒲焼はまだ技法として確立されておらず、白焼きで山椒味噌や酢をつけて食したという。
「いや、実に見事な夕餉ですな。皆に代わって礼を言いますぞ。ではご主人、遠慮なくご馳走になりますよ」
上座に座った藤兵衛が感謝をあらわすと、一同は料理に箸をつけた。
「ふむ」
地酒を一口含んだ藤兵衛と家竜が同時にうなった。
「これは旨いっ! お替りはいただけませぬか?」
下戸の大二郎は、鰻やはんぺんをあっという間に平らげてしまった。
「…はて?」
和やかな宴の最中、料理に箸をつけた藤兵衛はふと首をかしげた。
今度は膳に添えられた吸い物を一口飲んでみるが、これも途中で止めた。
「父上、いかがされましたか?」
早くもほろ酔いとなった大二郎が父の顔を覗き込んだ。
「いや…何でもない。ワシの気のせいかもしれぬ」
そう言って藤兵衛は黙り込んでしまった。
そして何か色々と考えを巡らせているようだった。