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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 52

「…爺さんはちょっと黙ってろよ」
 むっとした表情で家竜が言う。
「こういう時は師匠に譲るもんじゃぞ?」
「それとこれとは関係ねえ!」
 険悪になる二人を見かねて、雅が気をきかせて言った。
「では、私の背中をお貸ししましょう」
「は、はい…」
 雅が背を向けると、おきぬはすっと身体を預けた。
「じゃあ、早く行こうぜ!」
 一行はさらに二人を加えて夜道をさまようはめになった。
 自分が誘ってもためらうおきぬが雅の背にはあっさり乗ったので、いささか面白くない。
(雅の奴、要らぬ気をきかせやがって…。宿屋に着いたらまた啼かせてやろうか?)
 箱根の関所での雅の痴態を思い出して我慢する家竜であった。
「おきぬちゃん、申し遅れたが俺は家田竜乃進。手っ取り早く『イエタツ』って呼んでくれ」
「ワシはこいつらの師匠でな、秋山藤兵衛と申す。これは息子の大二郎」
「…身堂一馬と申す」
 手短に自己紹介を済ませると、一行は再び旅籠のある賑やかな通りまで戻ることになった。
 せめておきぬと徳兵衛だけでも何処かに泊まらせようと思ってのことである。
「おきぬさんや、どうしてまた旅をしとるのかの?」
「小商いをしていた母が先月亡くなりまして、身寄りのいる相模の藤沢まで参る途中でございます」
 藤兵衛の問いにおきぬはこう答えた。


「もし…お武家様。旅籠のことで難儀しておられるのですかな?」
 いきなり後ろから声をかけられた。
 振り向けば、身なりの良い商家の隠居風の老人である。傍で使用人らしき若い男が提灯を持っている。
「見ての通りだ。動けねえ爺さんもいて困ってるんだ」
 家竜が言うと、老人はにこりとしてこう言った。
「私は成増屋の隠居で仁左衛門と申す者。もしよろしければ私の隠居宅にお泊りいただけないでしょうか? 困った時の人助けも隠居爺の道楽でございます」
「おう、そいつぁ助かる。いや何、贅沢は言わねぇよ。旨い酒さえ出してくれたらいいんだ」
「私はこの辺りでは鰻が旨いと聞き、密かに楽しみにしておりましたが…」
 徳兵衛を背負って黙々と歩き続けていた大二郎がいきなり口を挟んだ。
「はっはっは! 正直なお武家様ですなぁ。私のところでは腕のいい料理人も抱えておりますゆえ、それなりの料理も召し上がっていただけますよ」
「そうですか! それで安心いたしました! お世話になり申す」
「お前はやっぱり色気より食い気か…」
 家竜も呆れつつ微笑んだ。
「そうと決まれば話は早い。少し山道を戻りますが、私どもについて来て下され」
 こうして人助けが一転して運良く宿を見つけた一行は隠居について行った…。


 仁左衛門の住まいは町中から南に一里ほど離れた香貫山の麓にあった。
 すぐ後ろまで山がせまっており、大きな門をくぐるとよく手入れされた庭が広がり、奥に屋敷が見える。
 その瀟洒なたたずまいには一同は思わず、ほう…と驚嘆した。
「ずい分と立派なお宅ですな!」
 藤兵衛が感心して尋ねた。
「老後の慰めに京から有名な絵師や俳人を呼んで教えを請おうと思いましてな。色々と趣向を凝らして作らせたのですよ」
 仁左衛門はにこにこしながら自慢げに言った。
 安旅籠の物置部屋に潜り込むことを考えたら、まるで天国のような宿である。
 玄関で女中の出してきた洗い桶で足を洗うと、動きの取れない徳兵衛だけが使用人の使う部屋に寝かされ、家竜たちは奥の座敷に通された。
「皆様、夕餉を用意するには少し手間がかかりますゆえ、湯で旅の汗をお流しになっては如何ですか? 屋敷の裏には露天風呂がございますよ」
 お茶を勧めながら仁左衛門が言う。
「おう、そいつは有難いな! ではさっそく…」
 家竜は上機嫌で身を乗り出した。この時代は混浴が珍しくない。おきぬの柔肌を眺めつつ、雅に背中を流させることを考えていたのだ。
「いや、そうしたいのは山々なんじゃが、ワシの息子はとんでもない堅物での、女人と一緒に風呂など浴びたら鼻血で岩風呂が血の海になってしまうわい。おきぬさんや、先に入ってきてくれんかの?」
「はい。ではそういたします…」
 おきぬは控えめに頷くとすっと立ち上がった。
「お、おい、それじゃ…!」
 藤兵衛の言葉を聞き、思わず立ち上がろうとする家竜を大二郎が脇から押しとどめた。
(父上には何を言っても無駄でございます。我慢なさいませ)
 …と、大二郎は目で語っている。

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