PiPi's World 投稿小説

暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

の最初へ
 49
 51
の最後へ

暴れん棒将軍 51

 と、そこへ一人の男が飛び込んできた。
「竜兄(あに)ィ! いるかい?!」
 見れば、遊び人風の小柄な人の良さそうな男である。珊瑚を見つけると馴れ馴れしく話しかけてきた。
「よう姉ちゃん、竜兄ィ見なかったかい?」
「それはこっちが聞きたいよ! あたしだって来てみれば、もぬけの殻さ」
「そうか…。先に皆と行っちまったのか…」
 男のその一言を珊瑚は聞き逃さなかった。
「えっ?! 竜さん、一体どこに行ったんだい?!」
「いや実は、昨夜賭場で竜兄ぃが大当たりを出してな。その場にいた皆で盛り上がって成田参りに行こうって話になったのさ」
 『成田参り』とは、もちろん江戸から十六里の成田山新勝寺を参詣することである。
 元禄の頃から江戸庶民の間では成田参詣が盛んになっていた。成田街道を三泊四日で往復する小旅行は庶民の憧れでもあった。
「えっ?! 竜さんってそんなに信心深かったの? 初めて聞いた!」
 これを聞いて珊瑚は目を丸くして驚いた。
 あのいつも傍若無人な竜さんにそんなしおらしいところがあるなんて…。
 不思議がっている珊瑚を見て男はちょっと渋い顔をしたが、気を取り直して話しかけた。
「おいら銀次ってんだ。ちょいと野暮用で出てる間にみんな先に行っちまったらしい。おいらはこれから急いで追いかけるが、何だったら姉ちゃんも一緒に来るかい? 足代はいらねえよ。全部竜兄ぃの奢りだぜ? 何しろ一山当てて三十両あるんだからな!」
「うん! 行く行く! あたしも行く! 行って竜さんをとっちめてやる!」
 無邪気にうなずく珊瑚を見て、銀次はニヤリと笑った。

******************************
「いや〜ようやく箱根の坂を越えたぜ!」
当初の三人に雅と楓を加え五人と成った一行は、(楓は一行より一人先行し、宿の手配や情報収集を行っているので、実質四人)ようやく難所で名高い箱根の険を越え、富士の裾野に在る沼津へやって来た。
「ふぅ・・・やはり老骨にあの坂道は堪えますわい・・・やはり富士の山は、上る物では無く、遠くから見るのが一番ですのお・・・」
「そうですか?私は景色も美しいし、足腰の鍛錬にも成るのでもう少し続いても良いと思ったのですが・・・」
延々と続いた箱根の坂道に家竜と藤兵衛が不平を鳴らすその横で、一人だけ涼しげな大二郎が、そう言って楽しげに笑う。
「黙れ!体力バカ!お前のような人外と俺を一緒にするな!!」
「さよう!まったくお主は年老いた老父を労わろうとは、思わぬのか!!この親不孝者め!!」
「……………くっ、くっ」
 生真面目な雅は三人のやりとりを見て編笠の下で笑いをこらえている。
 傍から見ていると、まさかこれから決死の覚悟で名古屋に乗り込もうなどとは到底思えぬ呑気さであった。


「こりゃあ弱ったな…」
 夕暮れを前に、家竜は街道で立ち止まってひとりごちた。
 ようやくたどり着いた沼津宿で、一行は思わぬ難儀を強いられていた。
 どこも満員で泊まれる旅籠がひとつもないのである。
 聞けば、この先の峠で急に崖崩れが起きたそうで、峠の整備が終わるまで旅人が足止めをくらっているのだという。
「上様、私は野宿でもかまいませんぞ?」
 大二郎は平然としている。
「お前はそれでもかまわねぇかもしれねぇが、こっちにも都合があるんだよ!」
 苦り切った顔で家竜が返す。
 楓とはこの沼津宿で合流する予定であったし、家竜はここらで少し身体を休めたいと思っていたのでとんだ番狂わせに顔をしかめていた。
「おっ。向こうにお堂があるぞ。あそこで一息入れようではないか!」
 藤兵衛が指を指した。

 一行がお堂に近づくと、誰か人の気配がある。
「おい、誰か…いるのか?」
「はい…」
 家竜の問いに対してお堂の中から、か細い女の声がした。
 観音開きの扉を開けてみると若い娘と痩せた老人が座り込んでいる。
 年の頃は十六、七といったところだろうか? 髪は濡れたように黒く、線が細く色の白い娘だ。
「こんな時分に娘さん、一体どうしたっていうんだ? 追い剥ぎにでもあったら大変だぞ?」
「驚かせてしまい申し訳ありませぬ。私はきぬ、と申します。下男の徳兵衛がぎっくり腰で身動きが取れず、仕方なくここで休んでおりました」
「そうか、おきぬさんか。じゃあ俺たちがどこか泊まれる家まで連れてってやる。おい大二郎、爺さんをおぶってやれ」
 家竜はあごで大二郎を促すと、にこにこしながら娘に近づいた。
 座り込んで娘に背中を見せるとさらに続ける。
「娘さん、ついでにあんたもおぶってやるよ。遠慮するな、さぁ!」
「いえ、あの…」
 おきぬは恥ずかしいのか、もじもじするばかりで一向に乗ろうとしない。
「これ、お前のようにぎらぎらした若者では娘さんが怖がるじゃないか! ワシの背中に乗りなされ」
 藤兵衛が脇から割り込んだ。

SNSでこの小説を紹介

時代物の他のリレー小説

こちらから小説を探す