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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 47

 紀州に古くから伝わる柳剛流の達人。
 若い頃は全国を武者修行して歩き、『紀州の小天狗』とも呼ばれて恐れられた伝説の男である。たしかにこれほど頼りになる人物もいないが、何か言い出したら絶対に譲らない。
 しかも家竜が幼い頃、おねしょが治らなかったことから少年時代の悪行まで、弱味はほとんど握られている。何者も恐れぬ家竜が唯一、苦手とするのがこの老人なのであった。

「楓ちゃんがわざわざ知らせてくれたんじゃ。家竜、ええ娘じゃないか。本当にお前のことを心配しとるんじゃな」
(楓のやつ…。後でたっぷりお仕置きしてやる!)
「ちっ。せっかく旅先でハメを外せると思ったのに…」
 家竜が横を向き、小声で呟いた。
「ん? 何か言うたか?!」
「いえ、別に…。久しぶりにお師匠とご一緒できて光栄の至りです」
 家竜はしれっとして答えた。

「さ、行くぞ。二人ともわしの後について参れ! お姉さん、お代はここに置いておくよ」
 藤兵衛はにこにこと小銭を取り出して台に置き、すっくと立ち上がる。
「こういう面倒事は手早く済ませるのが一番じゃ! 先を急ぐぞ!!」
「ははっ!」
 家竜らの先頭に立つと、そのまますたすたと歩き出した。
 二人はいかにも困った、という表情で顔を見合わせている。

 その三人を後ろから見つめる二つの影。
 鳥追い姿に身をやつし三味線を持った楓と、浪人風の着流し姿で編み笠をかぶった柳生雅であった。
「よかった…。お師匠さんがついてきてくれれば少しは安心だね。じゃあ雅、あたいらも行くよ」
「はっ」
 楓たちは少し距離を置いて後ろから追いかけてゆく。
 あれからさらなる楓の調教を受け、最近はすっかり従順な雅であった。毒霧であわや失明かと思われた両眼も伊賀秘伝の膏薬で無事回復した。

 東海道を一路、西へ。
 目指すは宿敵・徳川家虎の待つ尾張の国・名古屋城。
 はたして彼ら五人の行く手に待つものは何か? 花か嵐か、はたまた血の雨か?!


 それは誰にもわからない。


第二章完

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第三章 待ち受ける裏柳生の罠
 
 宿敵・徳川家虎との決着をつけるべく、家竜ら五人が江戸を出て既に二日。
 健脚の彼らは一気に十五里(約60q)を踏破、初日は平塚宿(神奈川県平塚市)に泊まった。
 用心のため大二郎らが交代で見張りに立ったが、裏柳生からの襲撃はなかった。
 そして二日目の昼には早くも箱根宿へと至った。
 問題はこの箱根の関所である。

 当時の言葉に『入鉄炮出女(いりてっぽうとでおんな)』というものがあった。
 幕府は江戸への鉄砲の持ち込みと、江戸から出て行く女には非常に厳しく取り締まっていた。
 人質として江戸に預かっている諸大名の妻や娘が勝手に国元に帰らぬよう、箱根関で厳重な監視体制をとっていたのである。
 女の場合、男の通行手形とは異なる『女手形』というものが必要であり、髪形やほくろや妊娠の有無など、身体的特徴まで徹底的に調べられた。
 大二郎や藤兵衛はいいとして、関所を抜けるにあたってまず問題となるのが、楓と男装している雅であった。

 小田原宿を抜けた後、五人は歩きながら話し合っていた。
「上様、その通行手形、本物なんでしょうな?」
 家竜の持つ通行手形を大二郎がしげしげと見つめながら言った。
「おぅ、紛うことなき偽物だ。賭場で知り合った闇職人にちょいと作ってもらったんだ。金はかかったがな」
「関所でバレたら如何するのですかっ?!」
「安心しろ、腕は確かだ」
「公方様ともあろうお方がなんと情けない…」
 大二郎は情けなさそうに下を向き、(とほほ…)という表情を見せた。
「仕方ねぇだろ? 俺が自分の通行手形なんぞ発行したら、忠成の野郎にたちまちバレてどやされちまう」
「ほっほっほ、お前さんもなかなかやりますな」
 藤兵衛が楽しげに口を挟んだ。
「お師匠…なんか口調が変わってますね。どこのご隠居ですか?」
「だまらっしゃい!」
「それより問題はこの先の箱根関だ。『出女』にはうるせぇぞ。楓は山中の間道を抜けていくからいいとして、雅はどうする?」
「私にそんな心配はご無用。この目で通ってみせまする」
 そう言って雅は編み笠を持ち上げ、右目の眼帯を指差した。

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