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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 46

 それを聞いて家竜はますます顔をしかめた。
「わかったわかった。俺はさっそく江戸城に戻るぜ。ああ、それと雅は楓が連れて行くからな。あいつにはまだまだ芸を仕込まなきゃならねぇ。いつまでもお前ん所に預けといちゃ迷惑だろ?」
 そう言うと、家竜はそそくさとその場を立ち去ったのだった。


 そして二週間ほど経ったある日。
 東海道五十三次の起点である日本橋に、二人の男が立っていた。
 もちろん傷の癒えた家竜と大二郎である。
 編み笠をかぶった旅姿の二人は、のんびりと歩き始めた。
 大二郎が辺りを見回しながら心配そうに話し出した。
「上様…。本当にこんなことをしてもいいのですか?」
「ああ、征夷大将軍の俺が許す。どうせ家虎の野郎とはいずれ決着をつけなきゃならねぇんだ。それならいっそこっちから名古屋に乗り込んでやるさ!」
「しかし、事が露見した暁には老中幕閣が黙っておりませんぞ! 忠成様でさえも庇いきれませんぞ!?」
「いいんだよ。やらなきゃならねぇ当面の政務は全部済ませた。俺が用意した影武者には、とにかく盲判を押しとけって命令してあるしな。それにお前だってこないだは腕の見せ所がなくて悔しかっただろう? 今度はたっぷりと用意してやるぜ」
「…それとこれとは話が違います! これは危険な旅なのですぞ!!」
「とにかくお前には期待してるぜ。襲ってくる刺客は全部任せた」
 家竜は楽しげにそう言うと、懐から扇子を出してぱたぱたとあおぎ始めた。
 季節は旧暦の五月。
 現代の暦で言えば七月になろうかという時期だ。いよいよ夏本番であった。

 健脚の二人はあっという間に東海道の第一宿・品川に到着する。
 当時の品川宿は、現在のJR品川駅ではなく京浜急行北品川駅〜青物横丁駅にかけての商店街辺りにあった。海が近く景観も良いこの宿場には旅人ばかりでなく、江戸市中からの観光客も多かったという。
 軒を連ねる旅籠には『飯盛女』と呼ばれる女中兼娼婦がおり、『北の吉原、南の品川』と並び称されるほどの色街でもあった。
 この繁華街にある休み処に腰かけ、一人で茶をすすっている老人があった。

「やれやれ上様にも困ったものじゃわい・・・もう十数年前の気楽な部屋住みでは無いと言うのに、スグに自分で行動しようとするなど、将軍としての自覚が無いにも程がある・・・」
老人の名は秋山藤兵衛。家竜の幼馴染である秋山大二郎の父親で、家竜の剣の師でもある。

「あ〜これこれ。そこな二人、待ちなさい!」
 聞き覚えのある声に呼び止められた二人がぎくり、として立ち止った。
「ち、父上?!」
「お、お師匠!!」
「お前達、なんという無茶なことするんじゃ。これからの道中は危険じゃぞ。用心棒としてわしもついて行ってやる!」
「本気なのですか?!」
「おお、本気も本気、大真面目じゃ!」
「父上…。先日、孫ほどに歳の離れた娘と祝言をお上げになったばかりではないですか!」
「お夏のことなら心配無用じゃ! あいつは実家の葛飾村に預けてきたでな」
 ちっ。
 思わぬ展開に当惑しながら家竜はこっそり舌打ちした。
(楓のやつ…あれほど黙ってろと言ったのに…。爺ぃにこっそり知らせやがったな!!)

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