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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 39

(…危険な賭けだが…。ここで死ぬわけにはいかねえんだ!!)
 意を決した家竜がすっくと立ち上がった。
 厳徹の方へすたすたと歩み寄っていく。
「…何っ?!」
 さすがの厳徹もあっけにとられている。
「ふんっ!」
 家竜は刀を大上段に構えた。その全身から気が漲っている。
「…なるほど。一刀に全てを賭ける、というわけか。よかろう。一撃で頭蓋を粉砕してやるわ!!」
 厳徹も木剣を上段に振りかざした。
「うおおおおおおおおおっっっ!!!!」
 裂帛の気合いを込めた叫びと共に二人の剣が振り下ろされた。

 生死が交錯した一瞬の後、再び長い長い沈黙が訪れた。
「家竜?! 父上っ?!」
 雅が気配を探りながら草むらから必死に叫んだが、それに答えるものはなかった。
 あまりの局面に、周囲に控えていた裏柳生の面々も言葉がなかったのだ。

 一体どうなったのか?!
 二つの影はそのまま微動だになかった。
 家竜の頭部に振り下ろされたはずの巨大な木剣は、真っ二つにされていた。
 渾身の力を込めた家竜の真向唐竹割が斬り裂いたのだった。
 刀はそのまま手元まで伸び、木剣を持つ厳徹の指までもことごとく両断していた。
 両手の親指は根元から、その他の指は関節の途中から切り落とされていたのだ。
 厳徹の両腕からどさり…と木剣が落ちると、鮮血が噴き出した。

「ぐぬぬぬ…。家竜ぅ〜!! よぉくもぉぉぉぉ、やってくれたなぁああああああ!!!!」
 地獄の底から湧き上がるような厳徹の咆哮が響き渡る。
「はっ! これで俺の勝ちだ!! 手前はもう剣士としちゃお終いだ! あきらめな!」
 家竜はそう叫ぶとその場にがっくりと崩れ落ちた。
「殺すっ!! 殺すっ!! 殺してやるううううッッ!!!」
 怒りにわなわなと震えながら、悪鬼の如き表情を見せて厳徹が迫る。
 家竜の顔に、腹に、腕に、血まみれの拳の雨が降り注いだ。
 しかし一刀に全身全霊を注ぎ尽くした家竜は逃げることもできず、されるがままだ。

「おやめ下さいっ!! 勝負はもう…終わったのです!!」
 飛び出した雅が厳徹の足元に必死にすがりついた。
 ドスドスドスッ!!
 と、その時、厳徹の背中に手裏剣が突き刺さる。
「させないよっ!!」
 屋敷中に火を点けて回っていた楓が戻ってきたのだ。
「ふんぬおおおおおお…っ!!!」
 それでもなお拳を振り上げる厳徹の心臓を、下から刀が貫いた。
 ぐさり…。
 雅が腰から抜き取った脇差を突き立てたのだ。
「お許し…下さい…。父上…っ!!」
「雅ィィィッ!!!」
 雅の頭を掴み上げて厳徹が叫ぶ。
(美しゅうなったな……)
 一瞬、雅の耳には父の声がそう聞こえた。
「…父上っ。今、なんと…?!」
 その言葉を聞き返す間もなく、雅はどさりと放り出された。
 厳徹は懐から皮袋を取り出して頭から油をかぶると、燃え盛る炎の中へと飛び込んでいった。
「…父上っ!! 父上―――っ!!!」
 雅の悲痛な叫びがこだました。

******************************

「うう…む…」
「上様! 良かった。気がついたんだね?」
 顔に差し込む朝日で家竜は目覚めた。
 気がついた場所は布団の上だ。見れば楓が心配そうにのぞき込んでいる。
「ここぁ…一体どこだ?」
「…心配したんだから!! ここ…大岡忠成様のお屋敷。上様は丸二日気を失ってたんだよ」
 生来の気性で言葉少なではあるが、楓は家竜の顔をじっと見つめ、何やら涙ぐんでいるようではある。気づかれまいとしたのか、楓は下を向いて鼻を押さえた。
「そうか、すまなかったな」
 隣の布団を見ると、雅が寝かされている。
 顔、腕、腹部といたるところに包帯が巻かれており痛々しい姿である。今は眠っているようだ。
「上様! お気づきになられましたか!!」
 どたどたと大きな音を立てながら、秋山大二郎がやってきた。右肩に巻かれた包帯が動きにくそうだが、いたって元気そうだ。
「なんだお前、騒々しいな。こちとら怪我人だぞ! もう少し静かにしろ!」
「いやぁ、それだけお元気ならもう大丈夫ですよ」
 大二郎はどっかと座り込んだ。
「それよりお前、どうやって俺達の居場所がわかった?」
「同門で一緒に修業して何年経つとお思いですか? 上様を思う気持ちは誰にも負けはしません。行く先なら手に取るようにわかります」
「うえっ。気持ちの悪い奴だな。お前、実は衆道好みだったのか? 俺ぁ女が好きなんだよ」
「ば、馬鹿な! 冗談はおやめ下さい! 私は必死に探し回ったのですぞ!!」

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