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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 36

(どうすれば良いんだ・・・い、イヤ!私は飽く迄尾張柳生家の人間であり、尾張徳川家の禄を食む人間だ・・・だから、此処は刺客たちと一緒に家竜を殺す事が正しいんだ!・・・でも・・・)
雅は糞虫が死ぬ間際に言った。実の父が自分を抹殺せよと命じたと知った事で、何を信じて誰と戦えばよいのか分からなくなっていた。
(ああ・・・私はいったいどうすれば・・・)
雅が思い悩んでいる間にも、家竜は刺客たちを退ける為の準備を進める。
「楓!奴らの狙いはこの俺様だ!だから俺が囮に成って敵を引き付ける!・・・お前は隙を見て屋敷を抜け出し、奉行所に駆け込め!そうすれば、奴らも引くしかなくなるハズだ!!」
「危険では無いですか?それに二手に分かれた所を襲われるては・・・」
「フン!こっちの戦力は三人だけだからな、二手に分かれた所で同じ事さ!!奴等としては、最低限俺を殺せれば、十分帳尻が合うハズだからな。上手く行けば死ぬのは俺一人で済むかも知れんぞ・・・」
そう言って家竜は不敵に笑う。
家竜の言葉に普段は無表情な楓が、珍しく怒りの表情を浮かべる。
「馬鹿言わないで下さい!!そんな心算なら!!」
「冗談だよ!冗談!!・・・頼んだぞ楓・・・」
本当は半分本気だったのだが、家竜は楓を宥める為にあえてそう言う。

 敵を迎え撃つために庭に出ようとした瞬間だった。
 ばんっ! ばぁんっ! ばぁぁん…っ!!
 突然、周囲から大きな音が鳴り響いた。四方の襖が、次々と吹っ飛んで倒れてゆく。
 奥の座敷は、たちまち見通しの良い大広間と化した。
 家竜達を遠巻きに囲む黒い影の群れ。忍び装束に身を包んだ裏柳生の精鋭達だった。
 彼らの行動は家竜の予想を超えて迅速だったのだ。
 それぞれが刀を抜くと腰だめに低く構えた。じりじり…と包囲網を狭めてくる。
 三人は刀を構えたままで背中合わせに固まった。
 このまま四方から刺し違え覚悟で突っ込んでくるつもりなのだろう。
 その後ろにはもう一陣が刀を振り上げて構えている。例え第一陣をかわしても第二陣が続けて襲いかかるつもりなのだ。
「どうやら、そう簡単には問屋が下しちゃくれねぇようだぜ!」
 家竜は自分の考えが甘かったことに苦笑いをしながら言った。
「…上様。ここはあたいに任して…」
 楓はそう言うと、続けて小声で何か呟いた。

 だっ!!
 じりじりと間合いを詰めてきた刺客達が一斉に飛びかかる。
 しゅっ!
 楓の懐から幾条もの白い光が伸びた。糞虫の死体からから奪い取った、あの投げ縄だ。
「うわっ!」
「げえっ!!」
 刺客達は伸びてきた縄に足をとられて勢いを失い、ばたばたと前のめりに倒れてゆく。
 糞虫の投げ縄にはしびれ薬を塗り込んだ毛針が仕込んであるのだ。絡め取られた刺客はたちまち身動きが出来なくなる。
 しかし仲間の身体を飛び越えて第二陣が風のように襲いかかった。

 ばんっ!!!
 しかし次の瞬間、家竜と楓が手を当てると、数枚の畳が勢いよく跳ね上がった。
 これぞ楓の得意技・畳返しの妙技!
 家竜もいざという時のために楓に教わり習得しているのだ。
 刺客達の忍刀は次々と突き刺さるが、畳を貫くことはできない。
 続いて、楓が素早く煙玉と火薬玉を周囲に投げつける!
 ぼんっ!!
 周囲はたちまち飛び散る火の粉ともうもうとした煙に包まれた。
「ひるむな! 続けて襲え!!」
 頭領の怒号が響く中、既に家達は床板を持ち上げて床下へと逃れていた。

「くっくっく…。奴らも用意周到なつもりだったろうが、ひとつだけそろばん勘定が狂ったな。思惑違いはここが船越屋の寮だったってことだ」
 家竜は床下の暗闇を走りながらほくそ笑んだ。
 そう。
 ここは家竜らが半年前に踏み込んで大捕物を繰り広げた屋敷だったということだ。
 荒れているとはいえ、屋敷の間取りも、抜け荷をこっそり運び出す秘密の抜け穴の場所も全部知り尽くしている。
 あとは抜け穴に潜り込み、敷地の中に引き入れてある川に逃れる…というのが楓の描いた脱出計画だったのだ。
 しかし、気がつくと後ろに雅がいない。
 はっとして家竜が立ち止った時、雅の声が響いた。
「お前達は先に逃げろ! 私はここで戦うっ!! 父上に会って聞かねばならんことがあるからな!!」
 雅は襲いかかかる刺客達を次々と斬り捨てながら叫んでいた。

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