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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 29

 雅は脇差を拾い上げて帯に差し直すと、改めて家竜の方に向き直った。
「驚いたか? どうせこれから死ぬる身だ。女好きのお主に送る最期の手向けよ!」
「おうおう、ずい分と色っぺえ恰好になったな。だが、そんな姑息な手が通じる俺じゃないぜ?」
「…はたして本当にそうかな? きええええええ―――っ!!!!」
 雅が再び斬りかかった。
 しゅん! しゅん!
 雅の鮮やかな斬撃が右、左、下、上と様々な方向から繰り出される。
 家竜もかわすのがやっとだ。いつしか頬や腕から血が一筋、二筋と流れていた。
 どんっ!!
 不意に雅の脚が跳ね上がり、家竜の胸を蹴り飛ばす。
「ぐはっ…!」
 家竜はそのまま後ろに吹っ飛んだ。
(一体なんだ、この技は…?!)
 めったなことには動じない家竜もいささか驚いた。
 よろよろと立ち上がり構え直す間、雅は剣を止めてじっと待っている。
「私の剣をただの新陰流と思うなよ? 長年の武者修行で研鑽を積み、柔術や様々な流派を取り入れているのだ!」
「く…っ!」
「どうした? お前の剣はその程度か?! 堂々と打ち込んで来い!」
「大した余裕だな…。てめえ後悔すんなよ? りゃああああ―――っ!!」

 ぶんっ! ぶんっ!
 家竜の必死の打ち込みを雅はひらり、ひらりとかわしてゆく。
 その華麗な動きは艶やかで、時に大きくのけぞり、時に片脚を持ち上げる。
 家竜は剣を振るううちに天女の舞を見ているような気持ちになっていった。
 その二人の戦いぶりを、糞虫はしれっとした表情で眺めている。
「何を遊んでるんだ? とっとと殺しちまえよ…。俺はこの女を早くオモチャにしたいんだ」
 ぶつぶつ言いながら楓の胸を鷲掴みにした。
 糞虫の様子が一瞬、家竜の目に留まった。
(楓…!! ちきしょうっ!!)
 思わず怒りがみなぎり、その時、振り下ろす家竜の剣は力みかえっていた。

 ガキンッ……!!
 それまでかわし続けていた雅の剣が突如閃き、その剣を受け止めた。
 ギリギリギリ…ッ!
 そのまま激しい鍔迫り合いとなった。雅の美しい顔が家竜の目の前まで迫ってくる。
 と、その時、雅の右目が突然輝いた。
 異様な輝きを放ち、まるでめらめらと燃え上がるように見える。
(金色の瞳!! 何だ、こいつの目は…ッ?!?!)
 思わず家竜は戦慄した。
「家竜!覚悟!!」
(か・・・体が重い・・・妖術の類か?)
雅の右目を見た時から、何故か家竜の全身が強張り、まるで両方の手足に重りを付けられた様に、彼の動きは鈍る。

『解説・・・この現象は、一種の催眠術と思われる。
剣士は戦いの最中、視覚や聴覚などの五感の他に、第六感で殺気を感じる事で相手の太刀筋を読んでいる。
また達人級の剣士は、自らの殺気を意図的に放ち、相手にフェイントを掛ける事さえも可能と言われている。
古流剣術の一派である二階堂平法には、その奥伝に「心の一方」あるいは「すくみの術」と呼ばれる秘術があり、この術にかかった者は、金縛りにあったように身動きができなく成るという。
恐らく雅のこの術も、これ等と同じものであろう』

 家竜の身体が完全に硬直していることを見てとった雅は、自信たっぷりに最後の技を仕掛けた。
(ゆくぞっ!! 鍔迫り…っ!!!)
 『鍔迫り』とは、鍔迫り合いの状態から裂帛の気合いを込めて刀ごと相手を叩き斬ってしまう必殺技である。
 ギリギリギリ……ッ!!!
 雅の刀がじりじりと家竜の刀に食い込んでゆく。家竜は戦慄した。
(やばい! このままじゃ刀ごと叩っ斬られちまう…!! どうする?!)
 しかし、身体はぴくりとも動かない。
「…このままあの世に逝けっ!!」
 バキッ…!!!
 遂に雅は刀を叩き折った。
 しかし、その下に家竜の身体はなかった。
 雅がはっとして脇を見ると、なんと家竜の身体は仰向けに寝そべった状態で横に転がっている。
「貴様! 一体どうやって…?! お前の身体は動くはずがない!!」
「…ああ。お前の目を見た途端、ぴくりとも動かなかったぜ。だが、こいつで気合を入れたんだ」
 家竜の口元から血が流れ出している。
 舌を噛み切り、その痛みで催眠状態から自分の身体を解き放ったのだった。
「そうか、舌を噛み切ったのか…!!」

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